1.漏斗胸に対する胸腔鏡下胸骨挙上術(Nuss法)

【漏斗胸とは?】
 胸部の下部を中心に胸郭が陥凹した変形のことを漏斗胸(ロート胸)といいます。胸郭(胸の骨組み)の前の部分は肋軟骨と呼ばれる柔らかい骨で構成されていますが、この肋軟骨と胸骨(胸板)の下半分が内側に落ち込んだ形に変形しています。
 男児に多くみられ、時に家族性に発症することもあって、原因は先天性と言われていますが、扁桃腺、喉頭、気管など上気道の病変や生まれつきの肺の病気などと関連して発症することもあります。
 重症でなければ心臓や肺への影響はないとされており、美容的な点だけが問題となることがほとんどです。ただし、陥凹の程度がひどい場合には心臓が圧迫されて回旋することによって、心電図の異常を指摘されたり弁膜症や気管支の圧迫症状を来したりすることもあります。
 漏斗胸の陥凹の程度を客観的に評価するために、胸部レントゲン写真や胸部CT検査が行われます。




 美容上の影響は本人の性格によってもずいぶん個人差がありますが、なかには友人に胸の変形を指摘されることで、引け目を感じてしまう子供もいます。そのため、漏斗胸の手術はほとんどの場合、美容形成的な目的で行われます。しかし、単に見た目をきれいにするための手術ではなく、子供さんが将来にわたってコンプレックスを持たなくてすむための手術でもあるわけです。
 程度の軽い漏斗胸では,水泳など深呼吸の要素を含んだ運動や扁桃腺の治療などで改善する場合もあるので、漏斗胸で外来を受診された患者さん皆さんにいきなり手術を行うわけではありません。通常は5歳程度(早くても4歳)で手術を行います。ただ、この時期を過ぎると手遅れになるというわけではなく、小学校高学年や中学生でも十分手術は可能です。
 当科では従来からある胸骨挙上術に加えて、最近では積極的に胸腔鏡下胸骨挙上術(Nuss法)を行っています。

【胸腔鏡下胸骨挙上術(Nuss法)について】
 Nuss法は1997年、米国の医師Nussにより発表された手術法で、最近ではわが国でも多数の施設で行われています。胸腔鏡ガイド下に陥凹している胸骨の裏側に金属製のバーを入れ、裏側から前方へと胸骨を押しだして矯正する方法です。
 手術の傷あとが脇腹にあって小さく、胸骨が均等に持ち上がるので美容的に優れています。一般に手術時間が短く出血量も少ないというメリットがありますが、バーを2〜3年程度固定しておき、もう一度手術をして抜き取る必要があります。また、手術直後の疼痛が従来の手術に比べて強いと言われており様々な疼痛対策が必要です。
 最近は国内外から長期成績が報告されるようになってきていますが、従来の方法に比べて遜色ない結果が報告されています。

(Nuss法術後)

(文責 臼井規朗)





【Nuss法の原理】

1.バーの挿入


2.バーの反転



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