1.新生児Bochdalekヘルニア術後の患側胸腔ドレーン ー 必要?不要?


新生児Bochdalekヘルニア術後の患側胸腔ドレーン留置については意見の分かれるところで、各施設によって対応も異なると思われる。当科では従来患側胸腔ドレーンをルーチンに留置していたが、最近の症例でドレーンを留置せずに管理した。結果的に胸腔ドレーンは不要であったものの、一時的に閉鎖腔となった左胸腔により健側肺が圧排され呼吸状態が不安定となるエピソードがあった。また術後合併症としての乳び胸等を考慮すると、ドレーンを留置しておいたほうが無難であるとも思われる。文献的にも意見が分かれているが、最近の文献では不要とするものが多い傾向にあるように見受けられる。

今回各施設の先生方に、胸腔ドレーンについて実際どうされているか、またその理由についてご意見を伺いたい。



2.両側横隔膜ヘルニアの1

症例は16日の女児。主訴は陥没呼吸。在胎371日、児心音低下のため緊急帝王切開で出生。出生体重1640g、アプガースコアは4/6。生直後から陥没呼吸があり、直ちに気管内挿管、人工呼吸管理が開始された。胸部X線撮影で左下肺野に腸管ガス像と右下肺野に横隔膜のドーム状突出を軽度認めた。X線透視下に左右横隔膜の奇異運動はなかったが、結腸が一部胸腔側に陥入しており、両側横隔膜ヘルニアと診断した。また、精査にて心室中隔欠損と18トリソミーの合併が認めた。抜管困難のため第16生日、経腹的に左横隔膜ヘルニア手術を施行した。横隔膜ヘルニアは有嚢性でヘルニア門φ20mm、脱出臓器は脾と結腸脾彎曲部であった。術後も血液検査上CO2の貯留が改善されず、抜管に至らなかった。右側のヘルニア手術も考慮したが、術後画像検査で右横隔膜ヘルニアの増悪や左側の再発は認めず、輸血、利尿剤の増量等の保存的治療により術後1か月で抜管、術後57日で退院となった。



3.胸壁外食道延長術を繰り返しているlong gapC型食道閉鎖の1例:根治術はどうするか

患児は現在3歳の男児。在胎41W0d、体重2790gで出生。生後翌日にLong gapC型食道閉鎖にて分岐部の気管食道瘻離断、胃瘻造設、前胸部に食道皮膚瘻を作成した。術後、右側の横隔膜神経損傷による横隔膜挙上症と気管食道瘻の再発を認め、生後35日目に胸腔鏡下にて横隔膜縫縮術、食道断端閉鎖術を施行した。生後3ヵ月目に胸壁外食道延長術を行い一時退院となった。その後、34ヵ月毎に食道延長術を計6回行ったが、食道皮膚吻合部の狭窄、前回の皮膚閉鎖部への食道瘻の開口、食道皮膚瘻部の縫合不全などの合併症を生じ、ほとんど食道の延長が得られなかった。計8回目の食道延長術の際に食道をBianchiに準じた食道flaproll延長術を作成し約3cmの食道が延長することができたが、術後に皮膚形成創の食道直上部で哆開した。さらに4ヵ月後に胸壁外食道延長術を施行した。現時点では、食道断端の距離は約2cmあり、前胸部には広範囲の皮膚瘢痕を認める。また、胃瘻からの胃カメラで、下部食道の食道炎と慢性胃炎を認めている。今後の最良の治療方法は?



4.全胃管食道再建を行ったC型食道閉鎖症:術後の通過障害、体重増加不良、呼吸障害

15ヵ月、女児、C型食道閉鎖症。34週、1,102gで出生。前医で胃瘻とカテーテル空腸瘻を造設し、日齢5に右開胸で根治術が試みられた。しかし下部食道が同定できず、換気不全、徐脈となったため閉胸した。術後も換気不全が続き、日齢14に胃から下部食道を離断した。4ヶ月時に全胃管による食道再建を試みたが、広範に右肺が癒着しておりair leakと出血のため断念した。当科に転院後、6ヵ月時に開腹、左開胸し、全胃管を食道裂孔から大動脈弓左側を通して上部食道と吻合した。術後に哺乳を試みたが喘鳴、呼吸障害のため断念した。造影検査では食道裂孔に一致して十二指腸の狭窄が疑われたが内視鏡は通過した。バルーン拡張も行ったが胃の蠕動が弱く排泄が遅延している。また経腸栄養を増量すると喘鳴、頻脈が増悪する。現在も酸素吸入と六君子湯投与を行い、ミルクを空腸瘻から780ml/日、経鼻胃管から120ml/日注入しており体重は6540gである。




5.肝障害の遷延する広範囲型Hirschsprung病の一例

症例は広範囲型Hirschsprung病の6ヶ月男児。Treitz靭帯より50cmの空腸まで神経節を認め、日齢14日、同部位に空腸瘻造設し、空腸瘻以下の小腸は回腸末端を残し切除した。中心静脈栄養(5060kcal/kg/day)に経腸栄養を併用したが、術後1週間ごろより肝障害が徐々に増悪した。中心静脈栄養を増やすことはためらわれたため、便性の改善と経腸栄養の増量を期待して日齢91日に右結腸パッチ手術(木村法)施行した。術後ビリルビン値の上昇は止まったが、肝障害は遷延した。現在、中心静脈栄養(70kcal/kg/day)と経腸栄養(12EDP280ml+エンシュア40ml)を併用し、肝機能悪化は認めていないが、体重の増加は不十分である。

肝障害の改善により現状は好転すると考え、間歇的中心静脈栄養の導入など、諸先生方に次の一手を伺いたく、発表いたします。




6.診断に難渋した反復性腹痛の1

症例は15歳女児。約1年前より食後に心窩部痛が出現するようになった。発作的に強い痛みを生じ、その都度近医を受診していたが、原因がはっきりせず、自然軽快、再燃を繰り返していた。有症状時の血液検査で一過性の肝酵素の上昇を認めており、精査のため他院でMRCPが施行された。膵胆管合流異常症が疑われ、ERCPが試みられたが、造影に至らず、確診には至らなかった。その後も頻回に心窩部痛を繰り返すため、当院を紹介となった。当院でもMRCPを行った。膵管の描出は不良であったため、ERCPを施行した。主乳頭の開口部がやや不明瞭であり、十分な造影所見が得られなかったため、副乳頭から造影を行った。背側膵管のみが造影され、膵管癒合不全と診断した。副乳頭切開を行い、一旦経過観察となった。その後、腹痛は一時的に消失していたが、約半年後に強い心窩部痛を訴え救急外来を受診した。肝酵素の急激な上昇が認められ・・・



7.感染経路が不明なMRSAによる後腹膜膿瘍の一例

症例7歳女児。来院16日前頃、生肉を食べて手足・目に発赤出現。時々腹痛を訴え、9日前頃より頻回となり、4日前頃より右下腹部痛あり。その後、疼痛が鼠径部まで拡がった。2日前近医(外科整形外科)受診し股関節炎と診断されNSAID投与された。来院当日同医にてWBC22150、CRP9.96、化膿性股関節炎疑われ当院整形外科紹介された。右下腹部を中心に圧痛あり、右股関節伸展できず。体温38.4度、脈115/分。US・CTにて後腹膜腔に巨大な膿瘍像あり。虫垂炎による膿瘍形成と考え、保存的治療(PAPM/BP+CLDM)を行っていたが、発熱・疼痛続き入院5日目に緊急手術施行した。術後も発熱続き、術後3日にはWBC15000、CRP8.9と検査値は改善していたが、術中採取した膿汁がブ菌を疑わせる所見があり、MRSA感染症と考えVCM投与開始した。翌日に解熱、翌々日MRSAと確定。術後11日VCM投与終了した。



8.先天性乳糜腹水 ― 難治症例の治療方法は?

【症例】在胎370日、出生体重2944g、女児。在胎28週に胎児腹水を指摘され、出生前に腹腔穿刺が1回施行されている。出生後、保存的治療で腹水は減少し、哺乳開始後も増悪しないため日齢18日目に退院となった。しかし外来フォロー中、哺乳量の増加に伴い急激な腹水の貯留が生じた。日齢47日目に腹満に伴う呼吸様式の悪化が出現し、緊急入院となった。絶食・TPNおよび間歇的に腹腔穿刺による減圧を行ったが軽快せず、日齢64日目に試験開腹術を施行した。しかし、乳糜腹水の漏出部位は同定できず腹腔内に生体接着剤を散布し手術を終了した。術後腹水は減少し哺乳開始後も増悪ないため、術後25日目に退院した。しかし日齢112日目(術後42)に腹水が増加したため、再度緊急入院となった。 先天性乳糜腹水は一般に自然軽快する疾患とされているが、難治性の症例も存在する。本症例のようにコントロール不良な乳糜腹水の治療につきご教授願いたい。



9.開腹既往のないイレウス・・・小腸狭窄!その原因は?

11歳女児、生来健康。200811月末頃から間欠的腹痛を訴えはじめ、20091月初め嘔吐を伴う腹部疝痛で近医に緊急入院。発熱・軽度炎症所見を指摘されるも画像検査等から急性胃腸炎との診断で投薬を受けて退院した。しかし帰宅後も腹痛発作は持続し、2週間後当科紹介となった。腹部単純X線にて小腸ニボーを認めた。血液検査上炎症所見なく、腹部超音波で虫垂炎、腸回転異常は否定された。造影CTにて回腸の狭窄が疑われ、free airや明らかな血行障害を疑う所見がないため、イレウス管挿入にて待機した。3日目にイレウス管造影にて回腸に短いが強い狭窄を確認、6日目に腹腔鏡施行。回盲部から約40cm口側の回腸が限局性に小骨盤腔後腹膜に極めて強固に癒着しており、腹腔鏡下に可及的に授動後恥骨上で小開腹して狭窄部を含む約20cmの回腸を切除した。術後経過は良好だが、さて小腸狭窄の原因は?



10.鎖肛術後に排便障害がみられたダウン症男児:これってHirschsprung病?

 患児は8ヶ月、男児。出生体重 2718g、在胎週数 375日。染色体検査で21 trisomyであることが確認されている。出生後に鎖肛を指摘。無瘻孔型の中間位鎖肛で、第1生日に会陰式肛門形成術を施行した。術後経過において、形成した肛門は順調に拡張でき、狭窄は認めず。しかし生後1ヶ月頃から腹部単純レントゲン上著明な結腸拡張像がみられるようになり、浣腸は11回だが、頻回のネラトンカテーテルによる減圧処置を必要とした。生後6ヶ月時の注腸造影では直腸にcaliber changeを確認。鎖肛にHirschsprung病を合併している可能性があると判断した。ただ注腸造影においてS状結腸より口側の腸管は拡張が目立たず。生後8ヶ月時に手術を行なうこととし、術式はSWENSON手術を選択した。その結果…。



11.腎リンパ管拡張症と考えられる男児例

症例は6歳男児。生後11か月時に発熱、下痢、嘔吐を認め、近医Aを受診した。輸液施行後多呼吸が出現し、胸腹水の貯留を認めたため、B医大に入院加療となった。感染症の改善とともに胸腹水は消失した。その後も同様のエピソードを認め入院、軽快したが、111か月時、転居に伴い滋賀医科大学小児科に紹介となった。その後も再度同様のエピソードを認め、精査加療目的に入院した。腹部MRI検査で、腫大した腎内における腎盂周囲嚢胞の散在、腹腔内リンパ管の拡張を認め、腎リンパ管拡張症と考えられた。その後外来にてフォローアップ中であるが、MRI検査にて腹腔内リンパ管から胸管にかけて著明な拡張を認め、徐々に増悪している。現在症状は認めていないが、今後リンパ管の拡張がさらに増悪していった場合、何らかの処置が必要か?必要であれば外科的に何が可能か?



12.アイゼンメンジャー症候群を伴ったダウン症患者に発生した直腸癌の1

症例は20歳の男性。幼少時より完全型心内膜床欠損にて当院小児科でフォローされていたが、今回大量下血を主訴に精査、加療目的で緊急入院となった。全身麻酔下に全大腸内視鏡検査を施行したところ、直腸癌を認め、大量下血の原因と考えた。しかしながら、アイゼンメンジャー症候群を合併し、高度の肺高血圧症を併発していたことから、経肛門的腫瘍切除術を選択した。術後経過は良好であり、第35病日に軽快退院となり、現在外来にて経過観察中である。ダウン症候群に合併した消化器癌の報告は散見されるが、直腸癌については極めて稀である。ダウン症候群の余命は延長され、今後は本症例のような消化管悪性腫瘍の合併も増加すると考えるが、本例の如く、重度合併症を伴う患者に対する外科的治療や、キャリーオーバー症例への対応につきご意見を賜りたく、症例を提示する。


13. 肝障害の遷延する広範囲型Hirschsprung病の一例

症例は広範囲型Hirschsprung病の6ヶ月男児。Treitz靭帯より50cmの空腸まで神経節を認め、日齢14日、同部位に空腸瘻造設し、空腸瘻以下の小腸は回腸末端を残し切除した。中心静脈栄養(5060kcal/kg/day)に経腸栄養を併用したが、術後1週間ごろより肝障害が徐々に増悪した。中心静脈栄養を増やすことはためらわれたため、便性の改善と経腸栄養の増量を期待して日齢91日に右結腸パッチ手術(木村法)施行した。術後ビリルビン値の上昇は止まったが、肝障害は遷延した。現在、中心静脈栄養(70kcal/kg/day)と経腸栄養(12EDP280ml+エンシュア40ml)を併用し、肝機能悪化は認めていないが、体重の増加は不十分である。

肝障害の改善により現状は好転すると考え、間歇的中心静脈栄養の導入など、諸先生方に次の一手を伺いたく、発表いたします。