1.先天性横隔膜ヘルニア術後の胸水が呼吸循環状態に影響を及ぼした2例
―胸腔ドレナージーの適応について―
第61回わからん会のアンケートで、先天性横隔膜ヘルニア(CDH)術後の患側胸腔ドレナージは不要で、ルーチンには留置しないという意見が大多数であった。一方、胸水の原因や病態によっては、ドレナージをするか否かが問題になることがある。最近われわれは、稀な病態から患側胸水の貯留を来し、胸腔ドレナージの適応について苦慮した2例を経験したので報告する。症例1はLT比が0.10の左CDHで、在胎37週に帝王切開を行い、同日パッチ閉鎖を施行した。術中および術直後の循環不全に対し、新鮮凍結血漿(FFP)が大量に投与された。術後1日目より上半身を中心とした高度の浮腫が遷延し、術後6日目のエコーにて上大静脈に広範囲の深部血栓を認めた。抗凝固療法を施行したにも拘らず、下大静脈にも血栓が波及し、全身的な還流不全に至った。術後14日目より左胸水が増加し始め、心エコーにて左心室の拡張障害を認めたが、レントゲン上では健側への縦隔偏位が認められるほどではなかった。症例2はLTが0.16の左CDHで、胎児期より患側に原因不明の胸腹水の貯留がみられた。在胎37週に帝王切開を行い、同日直接閉鎖を施行した。術後3日目より左胸水と腹水が増加したが、レントゲン上縦隔偏位は来さなかった。しかし、それまで順調であった尿量の確保、呼吸のweaningが不良となった。これらの症例において、胸腔ドレナージの適応について検討して戴きたい。
2.Jatene手術後に生じた後天性難治性腹水の1例
在胎38週2280gで出生した女児。日齢6バルーン心房中隔裂開術を施行。TGAU型に対し日齢18Jatene手術を施行、術後7日目に閉胸した。胸水貯留のため左右ともドレナージを施行、排液量は300ml/日であった。ミルク投与で白濁し、乳び胸水と判断した。絶食管理、サンドスタチンは効なく、術後28日の胸管結紮術後一旦胸水は減少したが、1週間後には200ml/日となった。術後63日目UCG上RA内血栓あり、ウロキナーゼ投与で消褪した。術後5カ月頃より胸水が減少し、腹水が出現したため胸腔から腹腔へドレナージを変更した。ルート確保困難となり(造影上大腿静脈とIVCの閉塞が示唆され、エコー上SVCが確認できない)術後8カ月時に開胸して右心房内にCVカテーテルを留置した。現在も人工呼吸管理下高カロリー輸液、腹腔ドレナージ中である。腹水の管理について手術を含めた処置を依頼され、方針を考慮中である。
3.先天性横隔膜弛緩症の1例
症例は29日の男児。在胎36週1日、経膣分娩で出生。出生体重1,904g、ApgarScore1/4。胸部X-Pで右横隔膜は全体に第2肋間まで挙上、縦隔は左側に偏位していた。右横隔膜弛緩症と診断し鎮静、人工呼吸管理を開始した。右横隔膜は第5肋間まで下降、縦隔偏位も改善したが、換気不全のため抜管困難であり、第29生日、胸腔鏡下に右横隔膜縫縮術を施行した。術後6日で鎮静、筋弛緩を解除したのち一旦SIMVモードまで下げることができた。しかし換気不全の改善は不十分でPCO2の再上昇により、術前のHFO設定に戻っている。加えて術後2週間ごろから徐々に横隔膜縦隔側が軽度再挙上している。再手術、気管切開、胸郭筋群や横隔膜の筋力増強を意識した人工呼吸管理の設定などについて検討中である。
4.C型食道閉鎖術後に何がおこったのか?
生後0日目の女児(在胎37W3d、2035g、A/P9/10)でgapのないC型食道閉鎖に対し右側の腋窩孤状切開、胸膜外アプローチにより手術を施行した。術後3日目にはWBC 6.32×103、PLT 20.8×104、CRP 2.37mg/dlと経過良好であったが、術後4日目に突然全身浮腫が出現した。血圧は正常で発熱はなく、胸腔ドレーン排液もほとんどなかった。レントゲンでは両肺野の透過性は低下していたが胸水貯留はなかった。しかしWBC 13.6×103、CRP 5.95mg/dl、AST 417 IU/L、ALT 53 IU/L、LDH 1847 IU/Lは高値を示し、PLT 1.1×104、PT活性 33%、APTT 200sec以上、ATV 34%は著明な低値を示した。PIカテーテル、Aラインの培養検査は異常なかった。超音波検査・造影CT検査では肝腫大、胆嚢壁の肥厚、periportal edema、門脈血流の低下と少量の腹水を認めた。術後5日目には WBC 17.1×103、AST 891 IU/L、ALT 124 IU/L、LDH 3366 IU/Lとさらに上昇した。その後もCRPは正常で発熱もなくAST・LDHは徐々に低下したが、血小板低下は1週間ほど遷延し、さらに黄疸(MAX:T-Bil
5.6mg/dl、D-Bil 3.9mg/dl)と腎機能障害(MAX;BUN 87.3mg/dl、CRN 1.4mg/dl)も併発した。食道閉鎖術後に何が起こったのか?
5.毛髪胃石による多発腸重積を発生した患児と家族への対応はどうするべきか
症例は12歳の女児で、嘔吐を主訴に近医を受診するも胃腸炎と診断された。その後、腹部超音波検査で回腸・結腸型の腸重積を指摘され、高圧浣腸にて整復された。しかし、腹部症状は改善せず腹部CT検査を施行したところ、小腸に多発腸重積を認め当院へ紹介入院となった。来院後、腹部超音波にて十二指腸壁の肥厚、第13因子の低下、回盲部のリンパ節腫脹、血流障害を伴わない小腸の多発腸重積から紫斑病を疑った。ところが、24時間経過後も胃内容物の排泄遅延から内視鏡検査を施行したところ、毛髪胃石を確認した。第二病日に毛髪胃石を示唆するも、患児からうまく情報を聴取することができず、内視鏡検査は24時間遅れで実施することとなった。患児の生活環境やこころの葛藤に我々はどのように対処すればいいのか。早期診断へのきっかけに助言をいただきたく本症例を提示させていただきます。
6.直腸肛門奇形症例手術時の筋肉刺激装置どうされていますか?困ってませんか?
直腸肛門奇形症例の根治手術術式として、内視鏡手術を含めたsagital
anoplastyが、現在多くの施設で標準的に行われている。その際に肛門挙筋群および、肛門窩の正確な位置を同定するために種々のmuscle
stimulatorは不可欠な装置である。当院では、装置の故障あるいは経年劣化の際には、他施設から機械を拝借したり、心臓用のパルス発生装置等を代用してきた。今回、従来のmuscle
stumulatorを小型化し単3電池を使用した安価な定電流パルス発生装置の作成を試みた。試作を繰り返し臨床的に満足できる品質となった。従来装置のバックアップ機として、本装置が必要な施設があれば、同時多数発注により低価格での供給が可能である。
7.脳腫瘍治療中に中心静脈カテーテル周囲に血栓形成を起こした一例
症例は2歳女児。右視床腫瘍加療目的にて入院。化学療法、採血用に右外頸静脈より7Fr中心静脈カテーテルを挿入し、右心房内に先端を確認した。脳腫瘍部分摘出術施行後、高カロリー輸液および脳浮腫予防にステロイド、グリセオール投与した。術後7日目心エコーにて右心房内カテーテル先端付近およびSVCに計3ヶ所壁在血栓を認めた。ヘパリンで抗凝固療法開始したが血栓が増大傾向にあったため、術後10日目カテーテルを抜去した。心エコー上血栓は一部消失し、その際一過性の発熱・咳嗽を認めた。術後14日目左鎖骨下静脈より4.2Fr中心静脈カテーテルをSVCに留置した。その後化学療法および残存脳腫瘍摘出術を行なった。再挿入後4ヶ月現在血栓は縮小傾向にあり、抗凝固療法を続けながら化学療法を継続中である。初回挿入後急激な血栓形成をきたし、治療方針決定が困難であった1例を報告する。
8.進行する右肩関節痛のため上肢挙上困難となった1男児例
症例は14歳男児。2007年春頃よりボールを投げるなどの運動をした時に右肩痛を自覚し、その後、徐々に右上肢挙上が困難になってきた。2008年6月、バレーボールでスパイクをした際、右肩関節の激痛を認め、前医を受診した。前医での造影CTにて血管性病変を疑われ、2008年8月に当院紹介受診となった。来院時、右上肢の外転及び挙上困難を認めたが、外観上右肩周囲の明らかな腫瘤や腫脹を認めず、血液検査上も異常を認めなかった。血管造影を施行したところ、右肩甲骨付近に多数の拡張、蛇行した動静脈を認めたため、2009年3月、6月、8月と計3回のIVRによる治療を施行した。症状は若干軽快しつつあるものの、現在でも上肢の挙上は困難で書字もままならず、今後の治療方針に苦慮している。これまで施行してきた血管造影およびIVR画像を供覧して頂き、今後の治療方針について御検討頂きたい。
9.血便を認め、メッケルシンチ陽性の女児の1症例
症例は、3歳の女児。約半年間、暗赤色の粘血便を月2、3回認めていたが、量が多くなってきたことで当院小児科受診。来院時明らかな腹痛は認めず、全身状態は良好であった。血液検査ではHb11.5g/dlと保たれていたが、MCV75.4fl(正常値 83〜100)、MCH24.6pg(正常値 28〜34)、Fe18μg/dl(正常値65〜157)と慢性的な鉄欠乏性、小球性貧血を示唆する所見であった。その他炎症所見なく、単純X線でも異常所見を認めなかった。小児科ではメッケルシンチも施行されており、左上腹部にアイソトープの集積を認め、メッケル憩室と診断され当科紹介となった。予定手術枠は先まで詰まってるから、ここ2週間ぐらいで手術場にたのんで準緊急で試験腹腔鏡、メッケル憩室切除術をねじ込んでもらおうか…と思ったが、事態は意外な展開を見せた。
11.Desmoplastic small round cell tumorの1例
症例は13歳の男児,主訴は腹部膨満.平成21年6月頃から,腹部膨満が出現し,近医を受診した.腹部超音波検査にて著明な腹水貯留を認め,精査加療目的で当科へ入院となった.画像検査にて,直腸膀胱窩に約6cm大の充実性腫瘤と腹腔内に腫瘍結節が多発しており,開腹腫瘍生検を施行した.病組織検査の結果,小円形細胞が線維形成性の間質を伴い巣状に増殖しており,Desmoplastic small round cell
tumor(DSRCT)と診断した. 高リスク横紋筋肉腫に準じた化学療法を開始し,計4クール施行した.造影CT検査では骨盤腔を占拠している腫瘤,腹腔内の多発性腫瘍結節は縮小傾向であった.
今後の治療方針は。