64回 小児外科わからん会 抄録集

             

I-1. 右上腹部に圧痛を認める児の胆嚢壁肥厚-本当に胆嚢炎?

症例は13歳男児。約1年前より反復する嘔吐や腹痛を認め周期性嘔吐症と診断されていた。本年3月に腹痛が持続するため前医を受診したところ、右上腹部に圧痛を認め、炎症所見の上昇とともに腹部超音波検査で胆嚢壁の肥厚および胆石と思われる陰影を認めた。胆嚢炎の診断で抗生剤投与を受け、症状や炎症所見は改善したものの超音波所見は改善を認めなかった。MRIを実施したところ、胆嚢壁の肥厚とともに胆嚢内腔への出血を疑う所見も認め、精査加療目的に当院へ紹介となった。

 

田村画像2

I-2. 先天性胆道拡張症を疑われた一例

症例は2歳男児。上気道感染に伴う気管支喘息にて前医入院、抗生剤、ステロイド療法を開始された。加療開始翌朝より激しい腹痛出現した。血液検査上胆道系酵素の上昇と高アミラーゼ血症(AMY 798U/l)を認め、超音波検査で総胆管の拡張が見られたため、先天性胆道拡張症の疑いで当院紹介となった。入院時血液検査ではWBC 7570/μlCRP 1.6mg/mlT-Bil 1.0AST/ALT 669/346 U/l、γ-GT 281 U/lAMY 409 U/lであった。当科で施行した超音波検査上は、胆嚢の腫大と胆泥、胆嚢周囲の低エコー域を認めたが、総胆管の拡張は認めなかった。合流異常の可能性を考え、MRCPを施行したが・・・

 

I-3. TC sign陰性の胆道閉鎖症例

TC sign陰性の胆道閉鎖症例はfalse negativeとされるがそうであろうか?

20生日、黄疸、灰白色便にて胆道閉鎖症疑いで当院に紹介された。TB 8.9DB 4.5であった。肝シンチ、十二指腸ゾンデ検査で胆汁排泄を認めなかった。腹部エコーで、TC signは陰性であったが、右門脈域に厚いhigh echo areaを認めた。胆嚢は萎縮胆嚢であった。第45生日、TB7.1DB4.8で、腹部エコー所見は同じであった。第47生日、開腹。胆道閉鎖症(Ⅲb2ο)で、葛西手術を施行した。肝臓は欝滞肝で腫大はあるが軟であった。

TC signが陰性であっても胆道閉鎖を否定できない。肝門部瘢痕分類のο(オミクロン)型、すなわち瘢痕無形成型胆道閉鎖では TC signは陰性となる。本症例のTC sign陰性、右門脈域のhigh echo areaは何を意味するのか、この場合肝門部瘢痕切除はどうすべきか、を考察する。

 

I-4. 輪状膵に伴う膵炎の一例

【症例】5歳の女児【主訴】腹痛【既往歴】生後2日:先天性十二指腸閉鎖症手術(輪状膵合併)、4歳;総胆管拡張症手術(戸谷Ⅳ-A、肝管空腸再建)【現病歴】総胆管拡張症手術3か月後、心窩部痛と発熱で当院を時間外受診。血液検査で血清Amy477U/ℓと高値を示し、急性膵炎の診断で入院となった。腹部CT検査、超音波検査で主膵管の拡張や膵周囲の液体貯留はなかったが、膵頭部に主膵管とは異なる長径20㎜の膵管拡張と膵石を認めた。この膵管拡張は手術前から確認していたが、急激に拡張、結石形成していた。膵炎軽快後、ファーター乳頭からのERCPを行った。拡張膵管は主膵管から膵鉤部へ分岐した位置にあり、膵癒合不全に伴う腹側膵管の結石、拡張と判断した。副乳頭からのERCPでは拡張膵管との交通は認めず、いずれも内視鏡的截石は不可であった。現在、蛋白分解酵素阻害剤の内服のみで症状は軽快している。今後の手術適応に関してご討議いただきたく存じます。

 

I-5. 重症消化管感染症に腹腔内膿瘍を伴った1

症例は14歳男性.主訴は腹痛,下痢,発熱.近医にて加療されたが増悪傾向認め,前医入院.造影CTにて門脈内ガス,腸管壁内ガスを認めた.腹膜炎を疑わせる症状はなく,イレウス管を挿入し保存的加療を行ったが,腎機能低下が進行したため当院転院となった.来院時腹部全体に圧痛認めるが,反跳痛,筋性防御は認めなかった.当院で施行した造影CTでは門脈内ガスは消失し,腸管壁内ガスは軽減していたため保存的加療を継続した.炎症反応は徐々に軽快したが,発熱,腹痛は持続し,転院後9日目には筋性防御が出現した.再度施行したCT検査では多発する腹腔内膿瘍を認めたため,緊急手術を行った.術中所見は広範な腸管癒着,浮腫および膿性腹水を認めた.癒着を剥離し,消化管を検索するも穿孔の所見はなく,腹腔内洗浄,腹腔ドレナージを行った.

 

-1.  腸重積整復後に後腹膜腔へのバリウム漏出を認めた1症例

 腸閉塞や穿孔の危険性があり、バリウムによる腸重積整復は禁忌とされている.今回、バリウムによる稀な合併症を経験したので報告する.

 症例は3歳女児.突然の腹痛と嘔吐を認め前医受診.腸重積の診断でバリウムによる整復が試みられたが困難で当院受診.Air reductionを施行した.前医での整復試行時から膣出血を認め持続していたため婦人科受診したが、出血源は不明だった.第3病日、39℃の発熱出現.CTで腎下縁から膣・直腸周囲の後腹膜腔にバリウムが貯留していた.腹腔内への漏出はなく、腹部症状は認めなかった.抗生剤投与にて炎症所見は軽快.膣出血は徐々に減少し、第9病日に軽快退院となった.

 後腹膜腔へのバリウム貯留についての報告はない.本症例では、整復時のバルーン過拡張や膣からの誤挿入が原因と推測された.後腹膜腔バリウム貯留による今後の経過は不明である.

 

-2. 食道閉鎖症術後・噴門形成術後の患児に発症した急性胃拡張の1例

症例は17歳男性。日齢1にTEF(c)根治術施行。術後のGERDに対し1歳時にNissen噴門形成術を施行。その後は経過良好であった。16歳時、急性胃拡張を発症し、虚血に伴う胃十二指腸狭窄・通過障害が出現。同時に噴門部の通過障害も合併した。空腸瘻造設にて栄養状態を保ち一旦退院できたものの、胃十二指腸狭窄は保存的治療に反応せず、胃底部・胃体上部の粘膜がかろうじて残るのみで不可逆的であった。精査を進めると、噴門部の通過障害は瘢痕化した胃の拡張による噴門形成の影響と判明した。胃瘻を造設し減圧する事により噴門部通過障害は改善したため噴門部は温存できると判断し、発症より1年後に、胃亜全摘+消化管再建(RY)による根治術を施行した。現在、経口摂取が可能となり、腸瘻よりの経管栄養を併用しているが、発症前と同様に学生生活を送っている。

 

-3. 出生後より哺乳時にチアノーゼを認める1例

症例は現在2ヶ月の女児。

日齢0から経口補水、哺乳を試みたが鼻腔に逆流がみられ、チアノーゼが出現。

経鼻胃管はやや挿入しにくいものの留置可能で、チューブ栄養は可能であった。

日齢10に当院転院となり、われわれは気管食道瘻や先天性食道狭窄症、小顎症などを考え精査を行った。外観は確かに小顎気味ではあるが、形成外科医診察にて哺乳障害をきたす程度のものではないとの判断であった。

日齢11に気管支鏡検査を行ったが、気管軟化症や明らかな瘻孔構造は認めず。

日齢12に行った上部消化管造影では、食道の通過障害を認めず。嚥下造影を行ったところ…。

その後の経過で、経鼻胃管からの注入でも嘔吐やチアノーゼが出現。最近行った上部消化管造影では上部食道に至る頻回の逆流も確認された。

さて今後どうしたものか…?

 

-4. たしか通過していたはず?!という超低出生体重児食道閉鎖症の1

 症例は、切迫早産にて在胎24週 出生体重654g アプガー8/8で出生した双胎第1子。NICUに収容され、日齢2に経鼻胃管挿入困難と当科に紹介された。胃管は気管分岐部レベルより先進し得ず、まず先天性食道閉鎖症を疑った。一方、生当日のレ線で認めた胃泡と小腸・結腸ガスが経時的に減少してゆくという、気管食道瘻の観点からは説明し難い所見も認めた。食道造影では下部食道は造影されず、穿孔の可能性も否定できない所見であった。一元的理解は困難であったが、現状はA型食道閉鎖相当と解釈し、日齢7に胃瘻造設して成長を待期した。しかし、その後の展開は…

 

-5. 狭窄した中間気管支幹をTEFと誤認し、食道中間気管支幹吻合を行ったC型食道

閉鎖症の1

症例は在胎35週、出生体重1716gの女児。日齢3日目にC型食道閉鎖と診断され当科搬送され手術となった。食道banding+胃瘻造設後、気管支鏡で観察したところ気管分岐部に細いTEFを認めた。腋窩孤状切開胸膜外到達法で縦隔に達した。気管分岐部の尾側、肺動脈より深部にTEFを認め結紮切離した。Gapの長さは 2cm で、上部食道盲端側壁を2 cmにわたりU字に切開しflapを作成、これをroll状に形成し食道吻合を施行した。術後9日目に食道bandingを解除したところ、腸管ガスが貯蔵し、右下肺野の無気肺が出現した。諸検査にて右上葉気管支より細い右中間気管支幹をTEFと誤り上部食道と吻合したと診断し、術後15日目に再手術を行った。中間気管支幹は狭窄部が長くまた中下葉は炎症が強いため、同部の再建温存は困難と判断し、右中下葉切除術+TEF離断+食道食道吻合を施行した。右上葉枝は左主気管支と同じ太さで、中間気管支幹は内腔3mm程度と細く、また本来のTEFはこの細い中間気管支幹の背側に位置していたことが、誤認の原因と考えられた。

 

-6. 食道bandingRedo食道吻合・開腹噴門形成術後で、筋線維肥厚型迷入による食道

狭窄症術後にさらに残存した下部食道通過障害の1

前述の症例は吻合部狭窄と下部食道の著明な拡張とともに横隔膜直上での屈曲と狭窄が出現したため生後4ヵ月目にブジーを施行した。GERも認めたためGERDに伴う狭窄と診断し開腹噴門形成術(Nissen法)を施行した。しかしNissen術後も下部食道の拡張が進行し通過障害が進行した。造影では食道拡張部下部に屈曲様の圧痕とその肛側はsegmentalに拡張し、またEC junction上部も狭窄があるように認めた。同狭窄部のブジーを数回施行したが、抵抗はなかった。しかし症状改善せず、精査で屈曲は先天性狭窄と診断し、生後39カ月目に右開胸手術を行った。食道筋層に1cm大のfibromasucular remnantを認め切除した。しかし術後も症状は改善されなかった。精査するも裂孔やwrapの締めすぎやwrappingに伴うtwistingは否定されたが、やはりEC junction上部の狭窄が原因と考えられたため、生後41カ月目に最終的に再開腹手術を行った。その結果?????があり、それに対する手術を行い、術後通過障害の改善を得た。