第65回 小児外科わからん会 抄録 (2011.3.5)
Session Ⅰ(14:00-15:30)
Ⅰ−1 小臍帯ヘルニアにおける脱出腸管と羊膜への腸穿孔に関する考察
症例は生後0日男児。妊娠歴では母は43歳で5回目の妊娠。32週6日に破水があり羊水混濁で産科紹介となった。翌日経腟分娩にて出生。生下時体重1580g、APGAR 8/9点。小臍帯ヘルニア、顔貌異常、心奇形(ASD+VSD+PDA)、両多趾症、両停留精巣を認めた。その後の染色体検査で13-trisomy, モザイク型と判明した。小臍帯ヘルニアは2x2x2cmで、ヘルニア内に腸管の脱出が見られ、羊膜に小穿孔があり胎便の漏出が見られた。同日手術を施行。メッケル憩室の脱出、穿孔、臍輪部での小腸狭窄2カ所を認めた。小腸を切除し端々吻合し、臍帯ヘルニアを閉鎖した。小臍帯ヘルニアにおけるメッケル憩室の脱出と穿孔の病態に関してご意見を伺いたい。
Ⅰ-2 潰瘍を伴う巨大臍ヘルニア、どのように治療しますか?
今回我々は一卵性双胎ともにBeckwith-Wiedemann症候群と診断され、第1子に潰瘍を伴う巨大臍ヘルニアを呈した1例を経験した。自験例は独自の工夫も効を奏したのか根治したが、巨大臍ヘルニアの修復や潰瘍合併についての報告は少ないため、治療方法や管理についてご意見を頂きたく症例提示する。
症例は生後3ヶ月の女児。当科紹介まもなく臍部に大きな潰瘍を生じたため緊急入院となった。入院時、体重は5.6kgで巨舌を認めた。臍輪は5cm大、ヘルニア門2.5cm大で、中央に4cm大の潰瘍を認め、腸管脱出のたびに臍皮膚と潰瘍部が強く伸展した。まず圧迫固定を試みたが、腹圧で還納状態が維持できず、テープかぶれも合併し継続困難であった。潰瘍も改善せず手術の方針とした。腹圧によるヘルニアの早期再発防止のため、修復方法と術後管理の2点で工夫し、結果、潰瘍は術後まもなく縮小、1ヶ月で治癒した。現在術後8ヶ月で再発なく、臍輪も縮小しつつある。
Ⅰ−3 再発を繰り返したAbdominoscrotal hydrocele(ASH)の1例
(第55回小児外科わからん会の続報)
6歳男児。1歳2ヵ月時にASHの診断で経鼠径的に手術したが腹膜鞘状突起は確認できず腹腔内水腫と精索水腫を切除して終了した。術後2.5ヵ月目にUSで7×4cm大の腹腔内水腫を認めた。術後3.5ヵ月目にASH再発と診断し腹腔鏡補助下に再手術した。鼠径部、腹腔内から腹膜鞘状突起は確認できず、内鼠径輪から腹腔内に突出した水腫内容を吸引し鼠径管内に翻転させ切除し伸展・開大した内鼠径輪を形成した。再手術2ヵ月目で腹腔内水腫は消失したが陰嚢水腫が再発した。(ここまで第55回わからん会で報告済み。)その後しばらく経過観察したが軽快傾向なく、再手術後4年半で3回目の手術を施行した。腹腔鏡下に再度内鼠径輪を詳細に検索したが閉鎖していた。陰嚢水腫はBergmann法で根治術を施行した。術後半年現在再発を認めない。ASHの治療のアプローチにつき示唆に富む症例と思われたので報告する。
Ⅰ−4 残存肺の低形成を伴った巨大CCAMの一例
31週2日2014gで出生。23週頃より左のCCAMを指摘されていた。胎児期に嚢胞穿刺を施行後,前期破水,経腟分娩で出生となった。
胎児水腫を来たしており,生後肺低形成,PPHNに対してNO吸入,肺の嚢胞ドレナージを含めた呼吸管理を行った。生後撮影されたCTでは左肺上葉の巨大CCAM、左下葉の低形成、右肺低形成が認められた。
嚢胞のドレナージが不良だと呼吸状態の悪化を認め、適宜ドレナージチューブの調整を行いながら呼吸管理していた。
CCAMでは一般的に肺葉切除術がおこなわれる。本症例のように、病変部以外の肺低形成が疑われている場合、治療は?
Ⅰ−5 鎖肛術後に発見されたクラリーノ症候群の女児例
症例は、2歳女児。中間位鎖肛の診断で、生後1週間で人工肛門を造設し、生後5カ月時にASARPによる根治術を施行した。1歳時に人工肛門閉鎖術を施行したが、その後、作成された肛門位置の前方への偏位が目立つようになった。肛門管と筋群の位置の把握のためMRIを施行した。結果、仙骨前髄膜瘤・脊髄脂肪腫を認め、脊髄係留症候群を呈し、脊髄空洞症も合併していることが確認された。クラリーノ症候群と診断され、小児脳神経外科にて髄膜瘤修復および係留解除術が施行された。術後、一過性と思われる排尿障害・排便障害を認めたが改善傾向にある。クラリーノ症候群を合併した中間位鎖肛術後の肛門位置偏位に対する治療につきご意見をいただきたい。
Ⅰ-6 先天性臀部瘻孔。これは何?また手術で全摘するための方法は?
患児は現在2歳6ヵ月の男児。胎児期にL-shaped交叉性癒合腎で、下極腎の尿管の異所性開口に伴う異形成腎と診断された。出生後の精査で下極腎の尿管は精嚢腺への開口と診断され、上極腎の機能は正常であった。その後、遠方に転居となったが便秘を訴え、こども病院でcovered anus incompleteと診断された。その精査中に左仙骨形成不全を指摘されたが、仙骨前腫瘤、tethered cord、髄膜瘤は認めなかった。また右臀部、肛門の8時方向で肛門縁から4cmの距離にdimpling(瘻孔?)を認めた。Cut backによる肛門形成をうけたのち帰郷となり、当院フォローとなった。2歳0ヵ月に臀部瘻孔部に感染性腫瘤が出現。瘻孔開口部は小さくカニュレーションできず、排膿はなかった。CT、MRIで瘻孔は大殿筋間をとおり坐骨直腸窩まで達していた。その後半年間にも4回も感染を繰り返している。
Currarino症候群に伴う先天性臀部瘻孔と考えていいのか、またその手術方法は?
Ⅰ-7 低位鎖肛に膣閉鎖症を合併した12歳女児の1例
症例は12歳,女児.出生後,低位鎖肛と診断され,近医にて1歳半まで経過観察されていた.2010年1月末から下腹部痛と膨満感が出現し,近医産婦人科を受診した.経腟超音波検査にて子宮から膣にかけて血液貯留を認め,子宮瘤血症と診断され,当科紹介受診となった.膣の開口は認めず,軽度の嵌凹を認めるのみで画像検査の結果から,本症を膣閉鎖症と診断した.4月19日,膣閉鎖症に対して膣形成術を施行したが,1ヵ月後に形成した膣腔は再び閉鎖していた.低位鎖肛を合併しており、軽度の排便機能障害を認めたため,6月14日,低位鎖肛,膣閉鎖症に対して,会陰式肛門形成術,膣形成術を施行した.膣内に端切したデュープルドレーンをステントとして,留置した.定期的に膣内の観察,ブジーにて拡張しているが,膣形成部には狭窄を認め,ブジーと膣ステント留置を繰り返している.今後,膣内に留置しているステントの抜去の時期について検討中である.
Session Ⅱ (15:40- 17:10)
Ⅱ−1 黄疸,肝不全を呈した1乳児例
症例は4ヶ月の女児.主訴は黄疸および体重増加不良.在胎32週0日,1658gで出生し,体重増加を待って日齢41で退院.退院時体重2331g.退院時血液検査にてビリルビン値の上昇を認めなかった.その後外来にて眼球結膜に黄染認めるも便は黄色との母親の談あり,経過観察されていた.次第に体重増加不良となり,血液検査施行したところ著明な貧血および肝機能上昇,胆道系酵素の上昇認め,緊急入院となった.入院後哺乳不良,意識障害が進行し,黄疸も増悪傾向であった.超音波検査にてTC signを認めた.また総肝管レベルの開存が確認された.腹部造影CTでは肝硬変に伴う肝の萎縮および膵頭部に嚢胞を認め,胆道閉鎖症もしくは先天性胆道拡張症に伴う肝不全と術前診断し,入院5日目に開腹胆道ドレナージ術を施行したところ・・・
Ⅱ—2 たしか通過していたはず?!という超低出生体重児食道閉鎖症の1例
症例は、切迫早産にて在胎24週 出生体重654g アプガー8/8で出生した双胎第1子。NICUに収容され、日齢2に経鼻胃管挿入困難と当科に紹介された。胃管は気管分岐部レベルより先進し得ず、まず先天性食道閉鎖症を疑った。一方、生当日のレ線で認めた胃泡と小腸・結腸ガスが経時的に減少してゆくという、気管食道瘻の観点からは説明し難い所見も認めた。食道造影では下部食道は造影されず、穿孔の可能性も否定できない所見であった。一元的理解は困難であったが、現状はA型食道閉鎖相当と解釈し、日齢7に胃瘻造設して成長を待期した。しかし、その後の展開は…
Ⅱ—3 生後25日目男児、突然の哺乳障害。食道が閉塞?
症例は生後25日目の男児。出生後嘔吐はよくみられていたが哺乳障害はなく、体重増加も良好であった。ところが生後25日目に突然の哺乳障害にて緊急入院。上部消化管造影検査を行ったところ、食道は気管分岐部を越えたところで完全に閉塞し、造影剤は全く通過せず。異物の可能性も考慮し、緊急で上部消化管内視鏡検査を施行。造影検査で見られた閉塞部位は白色調の瘢痕性変化で高度の狭窄がみられた。出生後の経過からは先天性の食道閉鎖症は考えにくく、後天性のものと考えると、元々食道狭窄があり、それに何らかの要因が加わり閉塞に至ったと考えるのが妥当か。ただし現状では下部食道の情報がない。さてどうしたものでしょうか?
Ⅱ—4 Foker法術後に食道穿孔から縦隔炎を発症したlong gap A型先天性食道閉鎖症の1例—更にlong gapとなった食道の再建方法についてー
症例はGross A型先天性食道閉鎖症の1歳男児。日齢5に胃瘻造設術が施行され、7か月時に両大血管右室起始症根治術を受けた。上部食道の肛側端は左鎖骨の内側端付近のレベルで、下部食道は気管分岐部より3椎体尾側で、上下食道間gapは5椎体であった。9か月時(体重9.5kg)に右胸膜外アプローチで根治術を行ったが、上部食道を剥離しても尾側への伸展が悪く、下部食道を剥離してもgapは6.4cmあった。そこで、上部下部食道を各々体外で牽引して食道を延長するFoker法を選択した。しかし、術後8日に上部食道穿孔による縦隔炎を発症し、上部食道瘻を造設した。再手術後7日に両側の声帯麻痺をきたして抜管困難となったが、保存的経過観察で1か月後に回復した。現在は下部食道の牽引もはずれて上下食道間gapは6椎体あり、上部食道の剥離が声帯機能に影響を与える可能性も危惧され、再建法について多くのご意見をいただきたい。
Ⅱ-5 胃食道逆流症術後、経腸栄養が出来ず困っています。ストマ造設?HPN?いっそのことDiswrap?
症例は6才の女児。在胎28週、606gで出生後、GERDで1才時にpartial
wrapによる噴門形成術、胃瘻造設を施行した。その後も嘔吐を繰り返し、経口摂取は進まず、エンシュアの注入および浣腸を必要としていた。腹部XPで結腸が拡張しており、4才時に癒着剥離術を施行した。患児の嘔吐は通園開始後に激しくなったため、5才時にNissen噴門形成術を施行した。術後腹部膨満、嘔気を認めたが胃瘻を開放しても排液はほとんど見られなかった。肛門内圧検査および粘膜生検は正常であった。栄養剤をEDPに変更したが、症状は継続した。注入後の血糖も問題なかった。現在、患児はHPNで管理を開始した。経腸栄養出来ません。原因検索は?対策は?
Ⅱ−6 持続する腹痛を呈した女児の一例
症例は、4歳女児。1ヶ月前より腹痛、嘔吐、食欲不振、血便を認め、急性胃腸炎として前医にて経過観察されていた。腹痛の持続および炎症所見を認めることから、外科的疾患を疑われ、当科紹介となった。血液検査では、WBC
15580/μl, CRP 1.3mg/dlと上昇を認め、腹部CT上、限局した小腸の著明な拡張と浮腫性変化、壁肥厚像および腹水貯留を認めた。なんらかの機械的閉塞機転があるものと考え、試験腹腔鏡を施行した。術中所見では、左上〜側腹部にかけての小腸に、約20cmにわたって暗赤色と白色の縞模様の病的色調変化を認めたが、内ヘルニアなどの機械的な閉塞はみられなかったので、観察のみにとどめた。この縞模様の小腸の原因は、後に明らかとなった。。。
Ⅱ-7 口径差のある腸管吻合について
(はじめに)我々は、腸管吻合を行う際に、①輪状筋の再構築を目的に吻合腸管の軸を合わせること②層々を接着させ内腔を最大限得ることを原則とし、全層1層縫合(両端、前後壁中央はGambee縫合)による端々吻合を行ってきた。今回、口径差のある腸管吻合後に吻合部通過障害を繰り返し治療に難渋した症例を経験したので、口径差のある腸管吻合の際に皆様が工夫されている点についてご意見をいただきたい。
(症例)在胎24週、出生体重642gの男児。日齢11に壊死性腸炎、回腸穿孔で人工肛門造設術を施行した。日齢175に人工肛門閉鎖術(回腸回腸吻合)を行った。口径差は3:1で、上記手技で吻合した。術後は、吻合部の通過障害のため、吻合部屈曲に対する癒着剥離、人工肛門再造設、再吻合(回腸上行結腸吻合、口径差は2:1、初回と同手技)、吻合部口側腸管のtapering
plastyの計4回の開腹手術を要した。