第66回わからん会  抄録集

 

1.Swenson手術後の陳旧性仙骨前瘻孔  ~どう治療すればよいですか?~

 

症例は10歳、女児。生後9か月時にSwenson手術で上行結腸をpull throughした。退院1週間後に発熱精査目的でUS、CTを施行し吻合部周囲に膿瘍を認めたが、この時の注腸造影検査では造影剤の漏出を認めず保存的加療で軽快した。しかし、その後も腸炎症状を繰り返したため、4歳9か月時に注腸造影検査を施行したところ、肛門から5-6cm口側で仙骨前面に向かう造影剤の漏出を認めた。陳旧化した膿瘍と診断し外来で吻合部狭窄に対するストレッチング、グリセリン浣腸による排便指導を続けてきたが、その後も仙骨前瘻孔は消退せず炎症を繰り返した。一旦炎症を消退させ再手術を目指す方針で8歳時に回腸人工肛門を造設した。人工肛門造設により炎症は改善したが児が人工肛門閉鎖を希望しており、残存する仙骨前瘻孔とそれを覆う瘢痕組織を再手術時にどのように治療すべきか悩んでいる。

 

 

2.新生児期に回腸穿孔をきたしたRsヒルシュスプルング病の1

 

ヒルシュスプルング病(以下,本症)で消化管穿孔をきたす症例は比較的まれである.われわれは今回,新生児期に回腸穿孔を認めた本症を経験した.

【症例】日齢2,女児.妊娠分娩歴に特記すべきことなし.401日,3382gで出生.アプガースコアは10/10(1/5).腹部膨満・嘔吐を認め日齢1に新生児搬送.この時点での注腸検査では明らかなcaliber changeを認めず経過観察としたが,日齢2に発熱・多呼吸を認めるようになり血液検査所見の増悪を認めたため緊急手術を行った.回腸末端から35㎝口側で穿孔を認め,同部位を回腸瘻とし,虫垂・回腸末端の生検を行った.これらはいずれも正常腸管であり,後日直腸粘膜生検を行い本症の診断に至った.生後3か月で腹腔鏡補助下に経肛門的pull throughを行った.無神経節腸管は歯状線から12㎝までであり,直腸S状結腸無神経節症と診断しえた.術後経過は良好で5か月時に回腸瘻閉鎖を行った.

 

 

3.原因不明の繰り返す消化管穿孔の1

 

症例は日齢21の男児。母が抗リン脂質抗体症候群。在胎282日、母体転倒により出血、胎児心拍低下のため緊急帝王切開にて出生した。出生体重1176gApgar Score 1/7。日齢18に頭蓋内出血による水頭症に対して外シャントを施行され、日齢19より腹部膨満、腸管拡張、血便を認め敗血症性ショックへ至った。壊死性腸炎を疑い日齢21NICU内で腹腔内ドレナージ、日齢25に開腹手術を施行した。4cmの上行~横行結腸破裂を認め回腸人工肛門を造設した。日齢86に回腸人工肛門閉鎖、結腸端々吻合術を施行したが、日齢91に腹部膨満、腹腔内free airを認め緊急で開腹術を施行。回腸末端に径2mmpunched out様の穿孔を認め、人工肛門を再造設した。日齢136に人工肛門閉鎖術を施行するも術後3日に再度free airを認め緊急ドレナージを施行し、日齢141に開腹術を施行した。小腸前壁に径1mmpunched out様の穿孔を認め縫合閉鎖し治癒した。消化管穿孔を繰り返した原因として抗リン脂質抗体の関与を考えているが不明である。

 

 

4.先天性尿道肛門管瘻の一例

 

小児の尿路奇形の中で先天的に尿道直腸の交通を認める報告例は非常にまれであり、一定した治療方針は確立していない。今回、我々は先天性尿道肛門管瘻の一例を経験したのでこれを報告する。

症例は9ヶ月の男児。在胎週数362日、出生体重:2438gApgar score4/6点にて出生。C型食道閉鎖症、声門下狭窄症、気管軟化症、胃食道逆流症のため食道閉鎖根治術、気管切開術、腹腔鏡下噴門形成術、胃瘻形成術を施行されている。出生時より尿道からの排尿を確認していたが、肛門からも液体の噴出を認めていた。軽度の尿道下裂を認め、尿道からの造影検査では尿道狭窄と尿道肛門管の交通が認められた。尿路感染徴候や腎盂の拡大なく経過している。このような尿路奇形の報告は数少なく確立した治療方針はない。今後の治療方針についてご意見をいただきたく報告する。

 

 

5.遺糞症・遺尿症の1例

 

症例:8歳女児。幼少時より遺尿症、6歳頃より便失禁が見られていた。7歳時に当院泌尿器科を受診。膀胱造影、内圧検査で膀胱容量は小さめであったが、その他異常は見られなかった。抗コリン剤の内服で一時改善するも、再燃。脊髄MRIでも異常はなく、無投薬で経過観察となっていた。その後も症状は続き、便失禁が増えてきたため、当科紹介となった。浣腸や止痢剤などを試みるも著明な改善はなく、週3回程度の下着汚染が続いていた。注腸検査では直腸膨大部が細く、屈伸、怒責で少量の造影剤の排出が見られた。直腸生検で神経節細胞は確認され、肛門の筋刺激では右側の筋収縮が不良であったが、CTMRIでは骨盤内占拠性病変や肛門位置・括約筋分布異常は認めなかった。家庭環境や精神面には大きな問題はなく、浣腸、止痢剤で調整中だが、まだコントロールは不良である。さらに検索すべき器質的疾患、今後のコントロール法についてご意見を伺いたい。

 

 

6.気管支内金属ステントが留置後11年目に下行大動脈へ穿通した胸郭変形に伴う気管支狭窄症の1

 

症例は15歳男児。4歳時に胸郭変形(漏斗胸+胸骨胸椎間の距離が短い)に伴う左主気管支狭窄に対し、胸骨挙上術、大動脈固定術および左主気管支内Palmazステント留置術を施行された。左主気管支のバルーン拡張術や肉芽焼灼術を行いながら経過観察されていたが、本年になり左主気管支の閉塞による左無気肺・肺炎を発症した。胸腔全体で胸骨と胸椎の距離は近接したままで、下行大動脈が椎体前面を異常走行しているため、左主気管支は下行大動脈の腹側に接しており、造影CTでは同部位のステント内に造影効果のある腫瘤を認めた。大動脈造影を施行したところステントが下行大動脈へ穿通した結果、気管支内に仮性動脈瘤が形成されていることが判明した。動脈瘤からの出血予防を目的に下行大動脈へのカバードステントグラフト内挿術を施行した。血管内ステントへの感染や、ステントの肺動脈側への穿通も懸念される本症に対し、今後どのような治療を行うべきかご意見を伺いたい。

 

 

7.進行する側弯により生じた壁外性の気管支狭窄に対する治療は?

 

症例は23歳の男児。重度の痙直性四肢麻痺で12歳時に腹腔鏡下噴門形成+胃瘻造設術を施行し、現在まで逆流等の再発所見もなく注入等の問題もない。14歳時頃より23/年に発熱の為に入院加療を行っていた。CT検査にて左下葉の1部に無気肺を認め、BAL等を数回行っていた。無気肺の原因は壁外性の気管支の変形により生じているものと診断していたが、誤嚥ができず肺炎を繰り返す為に、22歳時に喉頭気管分離術(上部気管食道吻合)を施行した。最近、気管内吸引で血液混じりの膿痰を数回みとめ、入退院を繰り返しているがほとんど炎症の所見はない。保存的に血液混じりの膿痰は改善するが、側弯の進行に伴い、下大動脈と左側の肺動脈による壁外性の気管支圧迫の為による無気肺の範囲は進行し膿瘍は残存している。【質問】①出血の原因、②患児に対する管理方法、②手術の術式や適応等、教えてください。よろしくお願いいたします。

 

 

8.術前診断に到らなかった巨大腹部腫瘤の1女児例

 

症例は7歳女児。生来健康であった。腹部膨満にて当院受診。腹部に可動性のある巨大腫瘤を触知した。腹部超音波検査にて腹腔内に一部多房性の巨大嚢腫を認めた。CTMRIにて腫瘤は15×20cm大で涙滴状、頭側端は胃もしくは十二指腸に連続するように思われた。一部に著明な壁肥厚を認め、同部の血流は非常に豊富であった。壁内に1箇所小さな石灰化を認めた。上部消化管造影では立位にて胃の長軸捻転を認めた。血液検査では腫瘍マーカーの上昇は認めなかった。以上より奇形腫、重複腸管、消化管GIST、リンパ管腫、腸間膜嚢腫、悪性腫瘍等疑い手術を行った。

 

 

9.腹腔鏡下リンパ節生検で鑑別を試みた10歳女児の発熱と腹痛例

 

【症例】103ヶ月女児 【経過】来院11日前から38℃の発熱あり、近医でCAM処方されるも解熱せず、6日前から腹痛も出現、近医より炎症所見高値にて当科紹介 【家族歴】妹も同症状でアデノウイルス感染と診断、同治療で軽快 【入院時現症】BT38.9℃ 独歩来院 下腹部に圧痛あり 筋性防御/反跳痛なし 体表リンパ節触知せず 【検査】WBC 26900/μl, CRP 18.92mg/dl, LDH 226IU/l 血液培養陰性 超音波/造影CT:回盲部中心に腸管壁肥厚著明、複数の腸間膜リンパ節が上腸間膜動静脈起始部近くまで径12cm大に腫大、虫垂周囲脂肪織のdensity上昇は軽度 【入院後】所見から虫垂炎は非典型的で保存的治療を選択。鑑別として悪性腫瘍、感染症などが挙がるも各種マーカーは陰性。状態はやや改善したがリンパ節は縮小せず、診断確定目的に腹腔鏡下リンパ節生検へ。でもこれでよかった?

 

 

10.全身に多発性骨病変を伴う、腹腔内を広範に占拠するリンパ管腫症の治療は?

 

症例は5歳男児。生下時より両側鼠径部から両側腎周囲の後腹膜、および脾臓にリンパ管腫病変を認めていた。その後、鼠径部から大動脈周囲の病変は自然縮小したが、脾臓病変が正中を超えるまで増大し、当初摘脾術を考慮していた。2歳になる前から後腹膜病変の増大傾向がみられるに伴い脾腫は軽減し、5歳の現在、呼吸障害や消化管の通過障害などは認めないものの、腹腔内は隔壁を伴ったリンパ液貯留が著明で、適宜腹腔穿刺を必要としている。また3歳時頃より下肢の病的骨折を繰り返し、単純レントゲン像でも明らかな多数の溶骨性変化を四肢のみならず頭蓋骨までも指摘されている。

 治療に難渋している本症例の今後の治療計画についてご意見を伺いたい。

 

 

11.小児陰嚢・精索水腫の発生機序・閉塞レベルと、水腫の分類に関する考察

 

小児水腫の分類には、陰嚢水腫と精索水腫の分類、あるいは交通性水腫と非交通性水腫の分類がある。最近、abdominoscrotal hydroceleAHS)の報告があり、水腫の分類は見直すべきではないか?多数の経験から私なりのアイデアを提示する。

1)水腫の交通性、非交通性の定義は?

2)ほとんどの水腫は肉眼的には非交通性である。かつ、全ての水腫は顕微鏡的には交通性である。

3)陰嚢水腫、精索水腫の分類は、水腫の末梢の閉鎖レベルの違いにすぎない。中枢の腹膜鞘状突起の遺残の長さには差がない。

4)水腫の解剖学的構造からは、A型:腹膜鞘状突起ー索状物ー水腫、B型:腹膜鞘状突起ー水腫、交通性水腫、に分類できる。

5)中枢の閉塞のレベルで分類すると、上記のA型(=scrotal hydrocele)、上記のB型(= inguinoscrotal hydrocele)、そしてASHと分類でき、臨床的にはこの分類が重要である。