第67回わからん会 抄録
1)一期的吻合に躊躇したC型食道閉鎖症の一例
症例は7日の女児。在胎40週に自然分娩で出生した。出生時体重2,508g、アプガースコア6/8点。胎児超音波検査で心奇形を指摘されており、NICUに収容された。胃管挿入不能のためC型食道閉鎖と診断され、心疾患は総動脈幹症、右側大動脈の診断を得た。新生児遷延性肺高血圧症のコントロールの後、第7生日、左開胸・胸膜外アプローチで食道閉鎖症手術を行った。TEF切離後の上下食道間は-7mmで、食道外径は上部10㎜、下部3㎜と口径差があり、下部食道壁は菲薄であった。5-0吸収糸を用いて一層結節吻合を行った。術後5日、胸部X線撮影で左上葉にブラ様の透亮像を認め、穿刺脱気を施行した。術後8日に後縦隔ドレーンから唾液の漏出を認めた。胸腔ドレーン追加ほかの保存的治療を行い、術後42日食道再吻合を施行した。術後経過は良好で、術後60日、心疾患手術目的に転院した。今回、食道一期的吻合の適応と開胸後の吻合以外のオプションについて検討したい。
2)卵巣嚢腫と術前診断し3回穿刺を行った腹腔内嚢腫の1例
症例は日齢14の女児.在胎36週の超音波検査にて腹腔内嚢胞を指摘されたため,日齢14に精査目的に当院小児科紹介となった.MRI検査を施行したところ骨盤内に径48mm,T2高信号の単房性嚢胞を認め,卵巣嚢腫が疑われたため当科紹介となった.卵巣嚢腫捻転予防のため穿刺術を3回行ったが,嚢腫は増大を繰り返したため臍部アプローチによる開腹術を施行した.回腸末端から100cmの腸間膜側に小腸と接する嚢腫病変を認め,小腸合併切除術を行った.さらにMeckel憩室も併発しており,楔状切除術を追加した.嚢腫病理所見ではびらんを伴う腸管壁構造を呈し,小腸と接する部分で固有筋層を共有しており,回腸重複腸管と診断した.今回,胎児および新生児画像診断で卵巣嚢腫を強く疑った重複腸管の症例を経験した.新生児嚢胞疾患は確定診断が困難であり,種々の状況を考慮して治療方針を決定する必要がある.
3)腹腔鏡下噴門形成、胃瘻造設術後の栄養管理に難渋した1例
【症例】5歳6ヶ月、女児。【既往歴】脳性麻痺患者。【現病歴】頻回の嘔吐を認め、誤嚥性肺炎を繰り返していた。精査にて食道裂孔ヘルニア、胃食道逆流症と診断し、手術を施行した。【手術所見】腹腔鏡下にNissen法にて噴門形成した。胃瘻を作成する際、胃は小さく頭側に挙上しており、また高度の側彎により左右肋骨弓の間が狭いため、胃と腹壁との固定に難渋した。【術後経過】術後3日目に胃の緊満を認めた。胃瘻より減圧が不可能なため経鼻胃管を挿入して減圧した。胃瘻チューブより造影検査を行ったところ、胃瘻の位置は幽門直近に作成されており、造影剤は胃内に流れず、直に十二指腸に流入した。また経鼻胃管からの造影では造影剤が胃体部に貯留し、幽門への通過は不良であった。以上より胃は胃瘻により尾側に牽引され屈曲し、通過障害をきたしていることが判明した。術後3週間すると通過障害は改善したため胃管を抜去し、腸瘻栄養にて退院した。
4)会陰式根治術を行った直腸尿道瘻の1成人例 —もとの病型は?—
症例は56歳男性。生後早期に肛門形成術を受けたが詳細不明。以後現在まで直腸尿道瘻が残存し、排尿時に肛門より尿が流出するため、常に座位で排尿していた。重症尿路感染を繰り返し腎機能が悪化したため、手術目的にて当院紹介。
(現症)肛門位置はほぼ正常であるが瘢痕様で括約筋の収縮はほとんどみられない。下痢の時以外は便失禁なし。
(尿道造影)球部尿道から直腸に至る瘻孔を認めた。
(手術)筋刺激装置で肛門周囲にはほとんど収縮を認めず。肛門周囲に逆U字に切開を入れ、会陰部より2.0cmのところに直腸尿道瘻を認め、これを切離した。直腸側は全層一層結節縫合にて閉鎖。尿道側は連続縫合にて閉鎖。薄筋皮弁を作成し、直腸尿道間の最深部へ充填固定した。最後に人工肛門を造設。術後2ヶ月で人工肛門を閉鎖し、以後直腸尿道瘻の再発は見られていない。
(わからない点)本症例の病型はrectourethral
H fistula?
5)右肺全葉に肺嚢胞性病変を認めた一例
症例は2歳男児。持続する発熱で前医を受診、肺炎の診断にて入院加療となった。抗生剤加療にて軽快退院するも1週間後に再度発熱、肺炎の再燃を認めた。精査にて右肺に嚢胞性病変を指摘。加療のため当院紹介となった。CTでは右肺上葉・中葉・下葉すべてに嚢胞性病変があり、特に上中葉周囲での浸潤影が強く見られた。抗生剤予防内服にてその後肺炎のエピソードは認めず、7ヶ月後のCTでは周囲の浸潤影はほぼ消失していたが、嚢胞性病変は変わらず右上葉・中葉・下葉に認められた。3葉に及ぶ肺嚢胞性病変に対する治療方針についてご意見を伺いたい。
6)術後5ヵ月NO吸入を中止できず、抜管もできない先天性横隔膜ヘルニアの1例
症例は生後5か月の男児。在胎28週に胎児超音波検査にて左横隔膜ヘルニアと診断された。LT比0.09と重症のため、在胎36週に予定帝切の方針とし、計画どおり出生した。出生体重2,630g。ただちに気管内挿管し集中治療を開始した。NO吸入も開始。スタビライゼーションの後、日齢5にヘルニア根治術を施行した。脱出臓器は胃、脾、腸管、肝左葉で、パッチ閉鎖を施行した。術後まもなく全身に硬性浮腫を生じ、治療抵抗性であった。患側気胸と乳糜胸を合併するも保存的に軽快した。PHは現在まで遷延し、これまで2度クライシスを経験した。そのためPGE1(リプル)は現在も投与している。PGI2(フローラン)は術後1ヵ月まで使用し、その後経口剤に切り替えているが効果は不十分で、NO吸入を中止できない。呼吸管理については抜管を目標に2度SIMVとしたが、いずれも失敗しておりHFOからも離脱できない。更に左肺下葉は未だに小さく胸水貯留も認める。本症例の抜管に向けてすべき治療や予後について御教示願いたく存じます。
7)肝管空腸吻合術後に肝門部が結合織化したⅠcyst胆道閉鎖症の1例
症例:在胎27週時の胎児エコーにて腹腔内嚢胞性病変を指摘。在胎40週4日、2458gで出生。全身状態は良好、便は灰白色。総胆管嚢腫の疑いにて、生後15日目に当科紹介。エコー上総胆管に径2cm大の嚢腫を認め、軽度の肝門部肝管拡張あり。徐々にBilの上昇を認めたため、生後42日目に開腹手術を施行。術中所見、胆道造影ではBAを疑う所見であった。総肝管切離部内腔を開いたところ良好な胆汁の流出を認めたため、肝管空腸吻合術を行った。術後灰白色便が続き、Bilの上昇もみられた。エコーでは、肝内胆管の拡張はみられず、肝門部胆管にTCsignを認めた。その後Bilやや低下傾向に転じていたが、灰白色便が続いていたため、ステロイド投与を行った。術後13日目に重症胆管炎をきたし絶食抗生剤治療を行った。炎症改善後、Bilは低下していたが、この後葛西手術は必要??
8)ヒルシュスプルング病術後に発症した気腹症の1例:何が起こったのか?
症例は1か月、男児。在胎40週2日、3312g、Ap8/9にて出生。日齢1に腹部膨満、胆汁性嘔吐を認め当院に入院した。注腸検査および直腸生検にてrectosigmoid
aganglinosisと診断した。経肛門的に減圧チューブを挿入し栄養管理を行い、日齢25に腹腔鏡補助下Swenson手術を行った。術後4日目より哺乳を再開した。術後10日目に軽度の腹部膨満、吻合部の軽度狭窄を認めたためネラトンチューブによるガス抜きを行い改善が得られたため術後12日目に退院した。退院後も1日5~6回の排便を認めていたが、哺乳量が減ってきたため退院後2日目(術後14日目)に外来受診した。腹部レントゲンにて多量のフリーエアを認めたため緊急開腹術を行った。開腹してみると・・・・。
9)腸回転異常症に空腸部分拡張症を合併した新生児の1例
症例は2絨毛膜3羊膜品胎の第2子。在胎29週時より胎児超音波検査で腸管の部分的な拡張を指摘されていた。在胎33週4日、1960g、予定帝王切開術により出生した。生直後の腹部単純写真でも部分的な拡張腸管を認めたため、胃管を留置し絶食管理とした。胆汁様排液が出現したため精査したところ、腸回転異常症が疑われ日齢3に開腹術を行った。開腹所見では捻転・内ヘルニアの所見はなく、腸回転異常症とLadd靱帯による圧迫が原因と推測される空腸の部分拡張を認めたが、圧迫の解除により拡張が改善すると推測してLadd手術を行い拡張腸管を温存した。術後は順調に経口摂取を進めることができ、1カ月で退院。術後1年が経過した現在は通常食を摂取しており体重増加も良好であるが、腹部単純写真上は拡張腸管がわずかに長くなっており慎重に経過観察中である。拡張腸管の温存という判断と今後の方針についてご意見を賜りたく提示する。
10)胎便性イレウスにて腸廔増設し、腸廔閉鎖後腸閉塞状態が持続し病理にてHypoganglinosisの診断となった1例
在胎26週6日陣痛の発来ためDD双胎第Ⅱ子として緊急帝王切開にて出生。出生体重1034g。出生後自力排便なく腹部膨満著明。日齢3注腸造影にてmicrocolonの診断、日齢5試験開腹術施行。Terminal ileumより25cm口側に狭窄、拡張部に非常に硬い胎便みとめ胎便性イレウスの診断にて腸廔増設、虫垂切除。(病理:hypoganglinosis )POD3より経管栄養再開、腸廔からの排便はまずまず良好。日齢127腸廔閉鎖。腸廔口側の腸管は著明に拡張しており、約10cm切除。(病理:hypoganglinosis/aganglinosis)腸廔腸管の口径差は20/8mm。POD6経口摂取開始したが腹部膨満悪化し再度絶食。POD13注腸造影、EDチューブを小腸内に挿入。吻合部での狭窄が疑われた。切除腸管の病理結果は未熟性によるものなのか、それともH病類縁疾患といえるのか判断に苦慮している。
11)時間経過とともに改善した腸管運動異常の1例
35週3日に胎児腸管拡張を指摘され紹介となり、在胎37週4日、3324g、自然経膣分娩にて出生。Apgar 9/9。出生後、胃管から胆汁性排液があり小腸の拡張を認めた。注腸造影はmicro
colonで、日齢1に回腸閉鎖症疑いにて緊急手術を施行した。回腸末端から30cmの部分にゆるやかなcaliber changeを認め、ヒルシュスプルング病類縁疾患の手術時診断のもとcaliber changeの口側に人工肛門を造設。その時の生検でS状結腸には、神経節細胞が存在し、人工肛門部の回腸生検では神経節細胞の減少が疑われた。日齢70に人工肛門閉鎖を施行し、各部位の病理診断を再度行ったが、その際には神経節細胞の有意な減少は認めなかった.人工肛門閉鎖術後、腹部膨満、嘔吐、下痢と行った腸管運動異常の症状のため経口摂取不良があり、中心静脈栄養による肝障害も出現した。しかし、時間経過とともに腸管運動は改善し、現在経口摂取のみで順調に経過している。
12)重篤な鬱滞性腸炎を繰り返すCIIPSの1例
症例は7才の女児。在胎28週、606gで出生。哺乳をいやがり胃注入で嘔吐を認め、1才時にpartial wrapによる噴門形成術、胃瘻造設を施行した。嘔気と胃瘻注入での嘔吐が強いため5才時にNissen噴門形成術を施行した。術後は嘔気、嘔吐は更に憎悪し、さらに鬱滞性腸炎を繰り返すようになった。肛門内圧検査および粘膜生検は正常であった。HPNで管理したが、少量の栄養剤投与で腸炎を繰り返すため、胃瘻よりイレウスチューブを挿入し持続吸引での減圧を施行。イレウスチューブの先端が回腸末端と上行結腸にて症状の改善を認めたため結腸減圧を考え、虫垂瘻を作成した。生検で腸管神経節細胞は正常でCIIPSと診断した。しかし術後も敗血症を呈する腸炎が頻発し、腸炎コントロールのためイレウス管の持続吸引を行っていたが、BTによる敗血症のコントロールがつかず、胸痛をきたすショックをきたした。CTを撮ると十二指腸にpnuematosisが・・・。
13.慢性便秘症のフォロー中に中毒性巨大結腸症を呈した男児の1例 ~この疾患の原因は何か?~
症例は4歳男児。2歳時より慢性便秘症に対しピコスルファートナトリウムを内服し、ほぼ毎日排便していた。1日排便がなく様子をみていたが、翌日に嘔吐と吐血があり近医を受診した。逆流性食道炎の診断でいったん帰宅したが、ショック状態となり当科に救急搬送された。CTでS状結腸から直腸にかけて多量の便塊を認め、便のうっ滞による中毒性巨大結腸症が疑われた。ICUへ収容し輸液・抗生剤投与および洗腸・摘便を施行し、徐々に意識レベルは改善した。消化管内視鏡検査では縦走様の潰瘍と敷石状の粘膜脱落を認め、炎症性腸疾患様の粘膜像を呈していた。保存的加療により症状は軽快したが、結腸の拡張と便秘は持続しており、外科的加療を検討中である。 この疾患の原因は何であろうか?
14.開腹歴のない癒着性イレウス
症例は6ヶ月男児、正期産、出生体重2904g。既往歴:特になし。現病歴:生後早期から便秘気味であったが、今回胆汁性嘔吐を認め、イレウスの診断で緊急入院となった。まずイレウス管による保存的加療を選択したが、腹部膨満が増悪したため緊急開腹術を行った。腹腔内全体にわたる広範囲の癒着性変化がみられ、索状物による内ヘルニアが閉塞機転となっていたため、索状物を切除して閉塞を解除した。さらに別部位の回腸の腸間膜対側に腸管外に突出する腫瘤性変化を認め、内部に胎便様の黒色組織がみられた。腫瘤性変化を含めて回腸の楔状切除術を施行した。病理学的検索では腫瘤性変化に近づくにつれて筋層は菲薄化、消失し、腸管穿孔が疑われる所見であり、胎便を疑われた腫瘤は脂肪織の壊死と粘膜の漏出、出血、石灰化が一塊となったものであった。さて今回のイレウスの病態は・・・?