第68回わからん会 抄録
セッションⅠ
1)気管無形成の1例 —食道再建について—
気管無形成は非常に稀で急性呼吸不全をきたす予後不良な疾患であるが、長期生存例の報告が散見されるようになった。気管無形成は胸部食道を気道として利用しているので、経口摂取をするためには食道再建が必要となる。現在食道再建を待機している気管無形成の1例を提示する。症例は4歳男児。在胎31週に羊水過多が指摘され当院紹介受診。在胎35週時のMRI検査で気管無形成と胎児診断された。在胎36週に帝王切開にて出生した。出生体重2158g。出生直後に気管内挿管を試みたが、喉頭は閉鎖しており、食道挿管を行った。内視鏡にて気管食道瘻を認めたため気管無形成と診断し、出生当日に下部食道banding、胃瘻造設、頚部食道瘻造設を行った。術後19日目よりCPAPで呼吸管理を行い、1歳1ヶ月でCPAPを離脱した。1歳11ヶ月時に胃食道逆流による重症肺炎を来したため、2歳時に噴門形成術を施行した。至適食道再建法についてご教授願いたい。
2)下血・麻痺性イレウスで発症した新生児例 診断は?
胎児診断で36週2日に胃内の腫瘤を指摘、在胎36週3日、体重2514g、Apgar8/8で出生。羊水混濁を認めた。出生直後より新鮮血の下血を認めた。腹部造影CTでは、胃に腫瘤は認めなかったが、回腸は著明に拡張しており、貯留物を認めた。腹部Xpでガス像に乏しく、胎便排泄は認めなかったため、麻痺性イレウスの状態であると判断した。また、炎症反応の上昇がみられ、抗生剤投与を開始した。下血が消失したため、日齢12より母乳栄養を開始した。哺乳時に嘔吐はみられたが、母乳は問題なく消化され、排便もみられた。日齢11に新生児TSS様発疹症、また日齢16にPIカテーテル感染に罹患し、抗生剤治療を継続したが、炎症反応はある程度改善するものの、陰性化せずに経過した。薬剤性肝障害を認め、日齢22に抗生剤は中止したが、現在徐々に炎症反応は改善傾向にある。本児の出生時にみられた下血と麻痺性イレウスの原因は不明のまま経過している。
3)腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術でこんな卵巣を見たらどうしますか?
症例は、9歳女児。両側鼠径ヘルニアに対し腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術施行。術中所見にてやや卵巣の左右差を認め、違和感を覚えるも観察のみとし、手術を型通り終了した。術後は特に問題なく経過し、再発所見なくフォローオフとなった。術後1年以上経過したある日、突然の右下腹部痛を発症し当科受診。血液検査上白血球増多(WBC
15,740/μl)およびCT上虫垂腫大および糞石を認めたため、急性虫垂炎の術前診断にて緊急手術施行となった。型通り、腹腔鏡下虫垂切除術終了し腹腔内観察したが……
4)下血症例における注腸透視の必要性
小児外科診療において、下血はしばしば経験する主訴である。今回、我々は下血を呈する患児に対し、注腸透視を行ったが所見が得られず、大腸ファイバーにて直腸ポリープの診断および治療を行った症例を経験した。注腸透視の必要性について御討議頂きたく報告する。症例は7歳、男児。継続する下血を主訴に当科紹介となった。排便時、肛門部に隆起性病変を認めたため、直腸またはS状結腸のポリープ(若年性ポリープ)を疑い、注腸透視を予定した。数日後、排便と共にポリープの排出を認めた。複数ポリープの可能性および他病変の鑑別のため、注腸透視を施行したが有意な所見を認めなかった。以降、外来にて経過観察をしていたが下血の再燃を認め、全身麻酔下に大腸ファイバーを施行したところ、直腸ポリープを確認し内視鏡的切除を施行した。術後、下血は消失した。術後、以前の注腸透視を再確認すると同部位に陰影欠損を認め、ポリープの存在が示唆された。
5)重症心奇形を合併した18trisomyの右側大動脈を伴うC型食道閉鎖症に対する治療
在胎29週に羊水過多・IUGRを指摘され、在胎33週に胎児超音波検査にて重症心奇形・食道閉鎖・口蓋口蓋裂等が判明。羊水検査にて18trisomyが判明した。児の治療方針について両親との度重なる話し合いを行った結果、両親共に積極的治療を望まれた。在胎37週3日経膣自然分娩で出生。出生時体重1596g。食道閉鎖症に加え、TOF・口唇口蓋裂・上肢の形成異常などを合併していた。出生後の全身状態は安定しており、日齢0に食道バンディングを施行。日齢15には抜管までこぎつけた。しかし唾液の誤嚥による無気肺を繰り返し日齢21に再挿管となり、次の一手が必要となった。頭側の食道盲端は椎体より左側に位置し、右大動脈弓も合併していることから、日齢29に頚部より縦隔にアプローチ、食道のswitchによる右側への皮膚食道瘻造設および気管食道瘻離断術を施行した。18trisomyの治療方針に決まった正解はないが、果たして当症例での治療はどうあるべきかご意見を伺いたい。
6)直腸からS状結腸にかけて著明な拡張のある19歳男性症例
症例は19歳男性、元来便秘であり、便秘と下痢を繰り返していた。17歳時、10日間ほどの排便停止があり、腹部緊満あるため当院消化器内科紹介となった。CT上、直腸からS状結腸にかけて最大径20cmの拡張と便塊の貯留を指摘され、ヒルシュスプルング病の疑いにて当科紹介となった。注腸造影検査では同様の拡張を認めたが、caliber changeは明らかではなく、直腸粘膜生検を施行した。同時に腹腔鏡下に拡張腸管を観察し、横行結腸に人工肛門を造設した。生検の結果は、アセチルコリンエステラーゼ陽性の神経線維の増生を認めず、ヒルシュスプルング病の診断には至らなかった。その後人工肛門による排便管理を続けていた。拡張部位は同様であるが最大径はおよそ11cmと半減した。大腸内視鏡検査では粘膜面に明らかな異常を認めなかったが、軽度の慢性炎症像を呈した。以上の症例についてこの病態は? 今後の治療は?
セッションⅡ
7)重症先天性横隔膜ヘルニア術後にパッチを嘔吐した1例
症例は在胎22週に先天性横隔膜ヘルニアと胎児診断された。肺胸郭断面積比は0.04であった。母体酸素療法を行い、在胎36週に帝王切開にて体重1978gで出生した。出生当日に横隔膜ヘルニア修復術(パッチ閉鎖:4.0×3.5cmゴアテックスシートをプレジット付き糸で固定)を行い、術後24日目に抜管となった。生後4ヶ月時に絞扼性イレウスで緊急手術を行ったが、生後6ヶ月時に退院となった。退院後発熱にて何度か近医に入院することがあったが、体重増加は良好であった。1歳2ヶ月時に激しい咳が出現し、5日後に口から横隔膜ヘルニア修復時のパッチを嘔吐した。このときの全身状態は良好でCT検査で横隔膜ヘルニアの再発なく、free
airも認めず、胃瘻からの注入も問題なかった。吐出したパッチにはプレジットと糸が全周に付いており、糸の結紮は全て解けておらず、プレジットも外れていなかった。横隔膜修復時のゴアテックスパッチはどのような経路、どのような機序で吐出されたのか?
8)大網捻転疑い?で紹介された急性腹症の1男児例 - 何これ?発性大網炎の1例
症例は生来健康の9歳男児。2日前に右下腹部痛を認め、次第に腹痛が増悪するため前医受診した。前医CTでは横行結腸腹側に渦を巻いた腫瘤を認め、血性と思われる腹水を伴っていた。虫垂の腫大は無いが糞石があった。反跳痛があり、腹膜刺激症状を認め当院紹介。来院時、右上腹部に最強点の圧痛があり、右側腹部に反跳痛を認めた。エコーでは腫瘤は内部不均一でわずかに血流を認め、腫瘤に一致した部位に圧痛を認めた。虫垂は同定できなかった。以上より、急性虫垂炎よりも大網捻転?が急性腹症の原因と考えられた。治療方針は腹膜刺激症状があるため腹腔鏡で腹腔内を観察、診断確定後に大網を切除することとした。糞石のある虫垂は清潔な大網を切除してから合併切除する方針で腹腔鏡下術を施行した。腹腔鏡下に観察すると大網の捻転は認めなかった。摘出標本を病理に提出。腹部腫瘤の原因は…、病理医の回答は…。
9)繰り返す腹痛を来した空腸リンパ管腫の一例
3歳、女児。激しい腹痛、嘔吐で前医受診。腹部エコー、CTで腹腔内多嚢胞性病変を指摘されたが、経時的に病変部は移動した。腹腔内リンパ管腫を疑われ当院紹介となった。病変部が大きくSMA根部近傍にまで存在しており全摘が困難であることが予想されたため、腹腔鏡で検索した後リンパ管腫壁の開放、OK432投与等を検討することを予定していた。当院受診後も、一過性の腹痛発作が頻回にあったが、エコーで腸管の絞扼所見は明らかでなく、軽度の捻転と自然解除を繰り返していると考えていた。某日、激痛で救急搬送、一旦は症状軽快したが受診中に腹痛再燃あり、リンパ管腫の捻転および腸管捻転の合併を疑い同日手術施行した。術式および結果は?
10)Abdominoscrotal
hydocele(ASH)の解剖に関する新発見~癒合壁内の交通路
ASHの発生機序・手術に関しては、未だ全く結論が出ていない。この原因のひとつはASHの解剖がわかっていない事による。文献的には、ASHでは鞘状突起が存在しない、非交通性水腫である、水腫の切除が必須である、との考えが主流であるが、確たる証拠は示されていない。
我々はこれまで、ASHには鞘状突起が必ず存在すること、水腫を切除せず鞘状突起を閉鎖するだけで治癒することを報告し、鞘状突起と水腫の癒合壁内に微細な交通路が存在することが想定される、と主張してきた。
これまで12例のASHを手術し、最直近の症例で、癒合壁内に微細な交通路を肉眼的・顕微鏡学的に確認できた。これは、ASHも一般的な水腫と全く同じ解剖をしており、鞘状突起→癒合壁内の微細な交通路→水腫とつながる交通性水腫であることを示す。
本症例は、ASHの解剖を明確に示すとともに、鞘状突起の閉鎖だけでASHが治癒することを強く裏付ける。本症例を提示する。
11)入院後治療方針変更が必要となった右肺腫瘍の一例
症例は11ヶ月女児。生後4ヶ月頃気管支炎で入院時撮影した胸部レントゲンで偶然右肺野に異常陰影を認め、胸部造影CTでは右下肺野に大きさ約3cm、内部均一で淡く造影される境界明瞭な腫瘤を認めた。MRIではT1、T2で筋肉より高信号を示していた。特記すべき腫瘍マーカーの上昇はなく呼吸器症状は認めないため外来で定期フォローされていた。腫瘤の退縮傾向なく悪性腫瘍の可能性が否定できないため右肺下葉切除目的に入院したところ全身に強い掻痒を伴う多発性紅斑性皮疹が出現、感染性皮疹は否定的であり、過去に何度も同様の皮疹を繰り返していたことからlangerhans cell
histiocytosisを疑い腫瘍生検術及び皮膚生検術に方針転換した。その結果non langerhans cell type histiocytosis
と診断された。これまでの治療経過及び今後の加療方針についてご意見を頂きたく報告する。
12)からだが石に…… ~生検してはいけなかった背部腫瘍~
患者は1歳10ヶ月女児。背部に発赤を伴う1cm大の腫瘤に気付き、その後1か月の経過で急速な増大傾向を示したため、当科紹介受診となった。左背部に5×2㎝大の弾性硬・可動性不良の腫瘤を認め、エコー・造影CT・MRIの結果、線維腫症、横紋筋肉腫が疑われたため、腫瘍生検を施行した。病理組織の結果は乳幼児線維腫症で、根治的に切除するのは困難と考えられたため、外来でサイズの変化をフォローする方針とした。
フォロー中腫瘍は更に増大傾向を認め、2か月後のMRIでは、腫瘍は背部皮下の広範囲に広がっていた。化学療法をトライするか、背部の皮膚移植スタンバイで腫瘍摘出を施行するかを検討すべく腫瘍カンファレンスを開催したが、放射線科医から意外な言葉が…
13)胆道閉鎖症術後胆管炎の1例 bile lake形成後の今後の処置、予後は?
症例は16歳の女子。主訴は発熱、右季肋部痛。第70生日、胆道閉鎖症Ⅲ‐b1-νに対して、葛西手術(空腸脚55cm、腸重積弁付加)、ステロイドパルス療法にて術後2か月で減黄した。経過良好であったが、術後11年目に右季肋部痛と発熱で近医を受診し、白血球増多、CRP上昇と高ビリルビン血症を指摘され同日当科へ転院した。絶食および輸液、抗菌薬の保存的治療で第10病日に軽快退院した。4か月後、胆管炎が再燃し保存的治療を再開した。MRCPで左肝内に数珠状の嚢胞性病変を確認した。減黄不良のため、ステロイドパルス療法を1クール施行し軽快した。利胆剤内服、過労の回避と充分な水分摂取を指示しているが、現在まで夏季を中心に計8回の胆管炎を繰り返し、bile
lakeは病勢に応じて拡張、収縮している。今まで保存的治療により短期入院で寛快を得ているが、今後のbile
lake穿刺ドレナージ等外科的治療の要否などについて検討したい。