第70回わからん会  抄録

セッションⅠ

 

1)切除生検にて濾胞癌と診断された小児甲状腺結節の1

【症例】11歳女児【現病歴】数ヶ月前からの右頚部の腫脹を主訴に当院受診【既往歴】放射線暴露歴を含め特記事項無し【身体所見】右頚部に2cm大の可動性のある境界明瞭な結節を触知【画像】超音波:甲状腺右葉内に直径2cmの充実性腫瘍あり、内部血流増大あり。CT:内部均一に増強される腫瘍あり、異常石灰化なし、周囲リンパ節腫脹なし、肺に転移を疑う所見なし【入院後経過】甲状腺がん疑いにて切除生検施行。周囲リンパ節もサンプリング【病理】皮膜浸潤・静脈浸潤を認めるが、皮膜外への露出は見られない微小浸潤型甲状腺濾胞癌、リンパ節に悪性所見なし【今後の方針】我々は追加切除なく外来フォローする予定であるが、小児甲状腺濾胞癌は稀な疾患であり今後の方針について(追加切除・TSH抑制療法)皆さんにご相談したい。

2)ECMO脱血管に多量の気泡混入・・・その原因は?

 

症例は項部浮腫、右胸水を合併した左横隔膜ヘルニア(L/T0.13Liver up(+)、胃泡grade1)と出生前診断されていた女児。364日、自然分娩にて2920gAPGAR score 5/7で出生。直ちに挿管し、HFOにて人工呼吸管理して右胸腔ドレナージ施行。全身状態、合併疾患を評価した後、日齢3で根治術施行。術後、低酸素状態が進行し、第1病日にECMO装着。第4病日、脱血管内に多量の気泡混入を発見。原因究明のため、脱血管結紮部位、ECMO回路内などを順次検索し、脱血管入れ替えも行ったが、改善を認めなかった。しかし、MAP1510cmHOに下げた直後より脱血管内の気泡が消失したことから、MAPを低く保ちながら呼吸管理し、第13病日にECMO離脱。回収した回路を点検したが、明らかな損傷は認めなかった。果たして、脱血管内の多量の気泡はどこから発生したのであろうか?

 

3)食道pHモニタリングの電極の位置について —みなさんはどうしていますか?—

24時間食道pHモニタリングのpH電極の位置について、日本小児消化管機能研究会のガイドラインでは、下部食道でLESの口側3cmに、X線上左右の横隔膜頂点を結んだ線上から約1椎体分口側に位置するよう推奨しているが、これはプローベ先端に電極が付いている1チャンネル式プローベの使用を念頭に定義されている。では、2チャンネル式プローベを使用する際、2つの電極の位置は上部と下部食道、あるいは下部食道と胃内のどちらがいいのだろうか。

 

4)超音波内視鏡により狭窄部の評価を行った先天性食道狭窄症の1例

 

症例は1歳男児。生後9ヶ月頃より嘔吐が頻回となり体重増加不良を認めた。生後12ヶ月に施行したUGIにて下部食道に限局性狭窄を認めた。食道ファイバーでは下部食道に高度の狭窄を認めた。狭窄部口側の食道粘膜には炎症所見なく正常であった。狭窄部位のEUSでは第4層に一致して約半周性に高エコー像を認め骨成分の存在が疑われた。この症例に対する治療法について問いたい。

 

 

5)特殊な形態を認めたGross A型(術前診断)食道閉鎖の1

 

症例は7か月の男児.胎児エコーで羊水過多を指摘されていた.在胎386日,2262g,胎児仮死のため緊急CSで出生.生後よりチアノーゼと流涎で発症し,Xp上胃管のcoil upがあり胃泡を認めず,Gross A型食道閉鎖の診断で当院へ搬送となり,胃瘻造設術を施行した.食道盲端間の距離は5椎体であり,生後3ヶ月時よりHoward法による食道延長を開始した.体重増加,食道盲端間の距離が近接するのを待った後,生後7か月時に手術を施行した.胸膜外アプローチで縦隔に到達したところ,下部食道は延長効果に乏しく,さらに下部食道盲端より連続して,気管分岐部の1.5㎝頭側の気管膜様部へとつながる索状物を認めた。吻合を断念し,modified Foker法を施行し,この索状物は切除して病理診に供したところ,食道の遺残であると判明し、また管腔構造は認めなかった。この特殊な形態を示す食道閉鎖の分類は?またその発生過程は?

 

6)乳児の幽門狭窄症。その病態は?治療は?

 

症例は15ヶ月の男児。3ヶ月前に頻回の嘔吐を主訴に近医を受診。消化管造影で幽門狭窄を認めたため、EDチューブ留置にて経過観察していた。その後も狭窄の改善はなく、当科での治療を希望され転院となった。消化管造影ではumbrella signを認め、内視鏡検査では幽門に胃内へ突出する粘膜の隆起を伴う狭窄を認めた。まず低侵襲であるバルーン拡張術を行い、EDチューブも併用して栄養管理を行った。ミルク摂取が可能となったが10日後に再度嘔吐が出現した。母と叔父がEhlers-Danlos症候群(血管型)であったが、治療中に患児にも同じ遺伝子変異が同定された。組織の脆弱性が予想されたため、手術侵襲のリスクを考慮し再度バルーン拡張術を行った。パンを摂取できるまでになったが、拡張1ヵ月後にEDチューブを抜去したところ再度嘔吐が出現した。手術適応と判断し幽門形成術を施行した。現在は嘔吐なく外来経過観察中である。

 

7)小児腫瘤形成性虫垂炎に対するinterval appendectomy― 軽快しない場合、いつ、どうすべきか ―

 

近年、腫瘤形成性虫垂炎に対して抗菌剤による保存的治療を先行して行い、炎症を沈静化させた後に虫垂を切除するinterval appendectomy が行なわれるようになってきた。症例は8歳女児。主訴は下腹部痛、嘔吐、発熱。B型インフルエンザで解熱した翌日に臍下部に腹痛を認め、その4日後に他院単純CT検査で虫垂炎を疑われて当科を紹介受診。超音波検査にて腫瘤形成性虫垂炎の診断となり、入院の上FMOXAMKによる保存的治療が開始され、interval appendectomyを計画した。入院翌日には解熱し、嘔気も消失したため、血液データ、腹痛の改善を待ったが、圧痛は残存し、6日間白血球数15000以上、CRP 3以上で推移した。発熱はなく、全身状態は安定していた。この時点で、抗生剤の変更、追加、ドレナージを行い抗生剤を続行、開腹、腹腔鏡下手術等の選択肢が考えられるが、どうすべきでしょうか。

 

 

セッションⅡ

 

8)肥厚したパイエル板が先進部と考えられた繰り返す腸重積症に対して再発予防策はあるのか?

 

症例は既往のない5歳男児。感冒羅患後に間欠的腹痛を主訴に近医受診し回腸結腸型腸重積症と診断された。高圧浣腸で整復不能であったため当院搬送となった。入院後再度高圧浣腸にて整復し得たが、その後も2日間で3回の腸重積再発を認め、その度高圧浣腸にて整復し得た。腹部エコー検査、腹部CT検査では明らかな器質的病変は認めなかった。器質的疾患の検索目的に単孔式で診断的腹腔鏡を施行したところ、回盲部腸間膜リンパ節腫大のみで、虫垂、盲腸に炎症所見は認めなかった。そこで腸管内病変の有無を確かめるべく用手的検索を行うため、臍より創外へ回盲部を引き出そうとしたができず、右下腹部小切開で開腹し行うこととした。すると回腸末端の内腔に肥厚を認め、パイエル板の肥厚が考えられ、これが腸重積の先進部ではないかと考えられた。本症例において、今後腸重積の再発予防策はあるのか?

 

9)慢性膵炎児に生じた腹腔内腫瘤の1例

 

症例:11歳男児。日齢8に先天性十二指腸狭窄に対しダイヤモンド吻合術を施行、術中所見で輪状膵を認めた。術後経過は問題なく、6歳時まで外来通院していたが、その後受診が途絶えていた。10歳時に腹痛を訴え、近医を受診した際、CTで膵石が認められた。当科受診し、膵管拡張、膵体尾部萎縮も認め、慢性膵炎と診断し、外来経過観察としていた。また、精査時の画像にて脾外側に26㎜大の腫瘤を認めたが、特に症状も有さず、炎症性偽腫瘍の疑いで経過観察としていた。約8カ月後の11歳時に夜間の発熱が1カ月程度持続するため、不明熱精査のため、当院総合診療科を紹介。精査のCTMRIで脾外側の腫瘤が一部横隔膜を越えるように増大していた。血液検査ではCRP6.79mg/dlと上昇しており、膵酵素の上昇や腫瘍マーカーの有意な上昇は認めなかった。本症例における増大する腹腔内腫瘤の鑑別診断、治療方針についてご意見を伺いたい。

 

10)膵炎を繰り返す男児例の原因は?

 

症例 9歳男児。既往歴:6Mumps時に腹痛を訴え、S-Amy 3905 IU/ℓで急性膵炎と診断(9日入院)。家族歴:父 急性膵炎の既往3回あり。現病歴:7歳時、急性膵炎と診断され(S-Amy 2684 IU/ ℓ)入院。ERCPにて明確な膵管胆道合流異常、膵管癒合不全は認めなかったが、採取された総胆管内胆汁アミラーゼ値が15125 IU/ℓと高値であった(16日入院)。この為、5ヶ月後手術施行、胆嚢切開にて採取した胆汁アミラーゼ値は40 IU/ℓ、術中胆道造影にて合流異常は確認できず。分流手術は施行しなかった。術後S-Amy1210 IU/ℓまで上昇したが、時に治療なく軽減した(4日入院)。術後1年の9歳時、再び急性膵炎を起こし入院。S-Amy1277 IU/ℓまで上昇したが、11日間の入院で退院した。わからんこと」①ERCPの所見は、膵管胆道合流異常、膵管癒合不全では?②前記でなければ何が考えられるか?

 

11)血便を主訴に来院し腹部単純CT検査にて門脈内ガスを認めた乳児例

 

【はじめに】門脈ガス血症は腸管壊死を伴う症例に多くみられ、予後不良の指標とされてきた。しかし、近年の成人領域では腸管壊死を伴わない症例の報告もあり、緊急手術を要するか否かについてはまだコンセンサスを得られていない。今回門脈ガス血症を呈した乳児例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。【症例】1ヶ月(日齢47)女児。既往に小腸閉鎖症。日齢2に根治術施行し日齢30に退院。【病歴】日齢44から下痢を認め日齢47に嘔吐、血便も出現したため前医受診。手術適応の判断のため当院へ救急搬送された。来院時、ショックバイタルは呈していなかったが四肢に網状チアノーゼを認めた。腹部は平坦、軟で筋性防御は認めなかった。血液検査で炎症所見を認め、血液ガス検査でアシドーシス、腹部単純CT検査にて少量の腹水貯留を認め、腹腔内遊離ガスはなかったが、腸管壁在ガス、門脈内ガスを認めた。以上の所見より手術適応は?

 

12)先天性胆道拡張症術後8年目に認めた肝門部結石の対処法

 

症例は9歳女児。生後2カ月時で嚢腫型先天性胆道拡張症に対し総肝管空腸吻合術を受けた。術後全く問題なく経過したが、88ヵ月時、10分程度持続する上腹部疝痛発作をきたした。超音波検査では肝門部近傍の総肝管に3×5mmAcoustic shadowを伴う結石像を認めた。肝内胆管拡張なし。黄疸なく、血液検査でも肝機能など異常を認めなかった。3ヵ月後に同様の疝痛発作あり。超音波、単純CTで結石像は不変で、肝管拡張もなかった。ウルソデオキシコール酸(300/day)内服を開始した。2ヵ月後の超音波検査で5×7mmと結石の増大を認めた。その2ヵ月後、20分続く上腹部痛が2度あったが安静で治まった。その後は症状なく経過。ウルソの内服は続けている。治療方針は?

 

13)肝移植後の門脈圧亢進症に対して門脈ステント留置が奏功した1

 

症例は10歳男児。胆道閉鎖症に対して葛西手術行うも減黄せず、生後8か月時に生体肝移植施行した。数年前より下血認めており,造影CTで門脈の狭小化認めていたが,脾静脈や左胃静脈の拡張は軽度であり,下部消化管内視鏡検査にて好酸球性腸炎の診断で経過観察されていた. 1年前より下痢,下血が増悪し,CTで門脈の狭小化が進行していた.PSEを行い下痢および下血はやや改善したが,門脈狭窄は改善せず経腸間膜静脈アプローチで門脈ステント留置を行った.現在術後3か月経過するが,下血や下痢症状は軽快傾向である.門脈狭窄の進行の原因として,肝臓のねじれによるものが考えられるが,その他の原因は?治療時期は最適であったか?

 

14)全身性混合型血管奇形の一例

 

症例は18歳男性。主訴:全身性混合型血管奇形 現病歴及び現症:前医にて混合型血管奇形左胸腹壁病変に対して、OK-432 注入療法やインターフェロン療法、レーザー治療、さらに摘出術も試みられたが、全摘には至らず、徐々に広がっていった。その後当院受診し、形成外科にて9歳時に同部の隆起部摘出術を施行されも、残存した病変部が体表面に露出し、現在リンパ漏を呈している。また、9歳時に左胸腹壁以外にも左腎門部近傍に5cm大及び脾内に数cm大の病変を認めていたが、徐々に増大し、18歳時には左下腹部から正中を超える後腹膜病変と左上腹部から臍下に至る巨大な脾病変となっていた。18歳時に後腹膜病変部に感染し、敗血症に至ったが、同部の一部切除開放ドレナージ術にて軽快した。また今回の経過中腸閉塞症を来したが、絶食にて軽快した。今後、敗血症や脾破裂の可能性、脾機能亢進症の進行、腸閉塞症の可能性が予想されるため、治療についてご意見を賜りたい。