8. 腹痛・嘔吐を呈した腹部腫瘤の1例
症例は7歳の女児。突然の腹痛・嘔吐を主訴に前医を受診した。腹部超音波および腹部CTにて臍正中からやや右側にかけて腫瘤を認めた為、精査加療目的に当科転院となった。入院時は腹痛・嘔吐を認めず、触診上臍やや右側に圧痛のない腫瘤を触知した。当院にて再度施行した腹部超音波にて、臍やや左側〜骨盤内にかけて7〜8cm大の腫瘤性病変を認め、腫瘤の内部には上腸間膜動脈およびその枝が含まれていた。周囲の腸管は浮腫様であった。腹部造影CT検査では、腸間膜脂肪織の広範で不均一な濃度上昇、腸間膜内の腫瘤影、大網全体のびまん性腫大を認めた。ガリウムシンチにて腹部全体にびまん性の集積を認めた。術前画像診断より悪性リンパ腫を疑い、開腹生検術を施行した。
生検の結果、リンパ脈管腺筋症(lymphangioleiomyomatosis:LAM)であった。現在外来で月1回のLH-RHアナログ(リュープリンィ)の皮下注射を続けており、現在4ヶ月目となったがやや腫瘍の縮小傾向を認めている。
LAMは結節性硬化症(TSC)の癌抑制遺伝子であるTSC遺伝子の異常により発症する。肺、骨盤腔・後腹膜・縱隔のリンパ節病変、子宮等における異所性平滑筋細胞(いわゆるLAM細胞)の異常増殖を特徴とし、確定診断は病変部の生検にて行う。呼吸器症状から発生するものが多く、初期には、喘息など他の肺疾患に類似している。併存疾患には、結節性硬化症、髄膜腫、腎血管筋脂肪腫、子宮筋腫がある。小児では調べた限りで6例の報告があり、本症例で7例目となる。妊娠可能年齢の女性に好発することから発症・進行には女性ホルモンが関与していると推定されており、プロゲステロン療法、卵巣摘出術、エストロゲン拮抗薬などのホルモン療法が行われる。予後は診断後の10年生存率40〜80%と幅広い報告がある。
LAMの小児例という稀な症例を経験した。本患者は現在も外来にてリュープリンィ投与を行っているが、腫瘍は若干の縮小を認めている。肺・脳などの他臓器においても、合併症の発生を認めていないが、今後、肺やその他の臓器において合併症の発生してくる可能性があり、定期的なフォローアップが必要である。