胎児胸部腫瘤の1例
上田正直, 大野耕一 , 木下博明
大阪市立大学第2外科
最近、胎児胸部腫瘤の1例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。患児は第0生日、女児。主訴:胎児超音波異常所見。現病歴:在胎28週の胎児超音波検査で胸部腫瘤影を指摘され母体搬送。在胎29週、腫瘤は約5×4×4cm大、充実性で内部はhigh
echoicで均一、肺・横隔膜との境界は明瞭、左心室に接し心筋との境界は不明瞭。また、右心室腔内に突出する径約1cm大の腫瘤も描出された。肺/胸郭比は0.18と低値であったが、胎児の発育・心機能は良好に保たれ、羊水量も正常。胎児MRIで腫瘤は、T1でlow、T2でhighで、腹腔との連続性はなく、左肺を強く圧排。また、羊水検査でL/S比は正常。以上の所見より、CCAM(。型)または心臓腫瘍を考え、著しい肺低形成も予想されたため、予定帝王切開にした。在胎37週、体重3446g、A/P;2/2で出生。人工換気、NO投与により、ようやく呼吸循環状態は安定。しかし、病変の自然退縮は期待できず、心不全が進行する可能性もあるため、早期手術を行った。胸骨縦切開で開胸。腫瘤は左心室から発生し、鶏卵大、弾性硬で、心筋との境界は不明瞭。また、腫瘤表面を左冠状動脈の分枝が走行しており、切除は不可能で、左肺の低形成がないため、生検のみ行った。病理組織検査で、心臓横紋筋腫と診断。頭部CTで側脳室内に突出する小結節を2カ所認め、結節性硬化症の合併が疑われた。術後経過良好で、第46生日に退院。その後、腫瘍の増大はなく、心機能は良好。心臓横紋筋腫(以下、本症)は、小児原発性心臓腫瘍の60%を占め、約50%に結節性硬化症を合併し、比較的小児に多い。自験例のように巨大で、出生前より疑われた症例は稀。本症は自然退縮例もあるが、不整脈や心不全を発症する症例もあり、小さなものや、駆出障害をきたす症例では切除術が行われている。しかし、自験例のように切除不可能な症例もあり、死亡率は1才以内が60〜78%、5才以内が80〜92%と高く、自験例も今後厳重な経過観察が必要である。