多発性腸閉鎖の多くは、胎内損傷により二次的に発生し、閉鎖が結腸、直腸におよ
ぶことは極めて稀である。最近、胎内損傷の所見を伴わず、小腸、結腸、直腸に生じ
た多発性腸閉鎖症例を経験したので報告する。
 症例:在胎37週6日、2282gで出生した女児。腸閉鎖症の家族歴なし。在胎30週頃よ
り、胎児超音波検査で消化管拡張を指摘されていた。羊水過多なし。体表奇形認め
ず。日齢1、経口開始後、胆汁性胃内容液吸引。腹部膨満、嘔吐出現。腹部単純レ線
上、消化管拡張像あり、注腸造影を行ったところ、直腸は肛門縁より口側約1.5cmで
閉塞。直腸閉鎖症の診断にて人工肛門を造設術を試みたところ、小開腹創より拡張し
た小腸と、閉鎖のためソーセージ様の外観を呈する腸管を認めたため上腹部横切開で
開腹。Treitz靭帯より肛門側45cmの空腸から回腸末端の口側35cmの間、約30cm
長の小腸に9カ所、また肝弯曲部よりS状結腸にいたる結腸に6カ所の膜様もしくは
索状閉鎖がみられた。腹膜、漿膜に癒着なく、閉鎖部の腸管、腸間膜に欠損はみられず、
腸間膜血管にも閉塞はなかった。さらに、腹膜翻転部の口側1.5cmより肛門側直腸が索
状に閉鎖しており、また回盲部に異常がないにもかかわらず虫垂が狭小で索状であっ
た。小腸、結腸閉鎖部を切除、小腸−小腸吻合施行、上行結腸瘻を造設。またS状結
腸口側端も外瘻とした。残存小腸は約65cmで回盲弁を温存でき、術後概ね良好に経
過。病理組織学的に閉鎖部は結合織よりなり、内腔は粘膜、粘膜筋板で覆われてい
た。低形成性ではあるが固有筋層は断裂、変性なく存在。また、閉鎖腸管内腔に石灰
化した残渣がみられたが、胆汁色素、上皮、胎毛はなかった。
 非遺伝性の多発性腸閉鎖症で、閉鎖が結腸、直腸にもみられた症例は極めて稀であ
る。自験例の閉鎖は肉眼的所見、病理組織学的所見から血行障害など胎内損傷により
二次的に発生したものとは考え難く、詳細は不明であるが発生異常が原因と考えられ
る。直腸閉鎖に対して posterior sagittal approach による根治術を予定してお
り、現在待機中である。