低侵襲手術

低侵襲手術(小児の内視鏡外科手術)

 こども達にとって負担が少なく、成長の妨げにならない手術を目指して、内視鏡外科手術を積極的に取り入れています。内視鏡外科手術は成人領域では急速に普及して一般的な治療となりつつありますが、小児での適応はまだまだ限られているのが現状です。当科では小児専用の手術器具を使用して、安全性を最優先にした手術を行っています。
  現在実施している主な内視鏡外科手術は、鼠径ヘルニア根治術( 詳細はこちら )、虫垂切除術、噴門形成術、腸重積症手術、メッケル憩室切除術、鎖肛根治術、脾臓摘出術、胆嚢摘出術、漏斗胸手術( 詳細はこちら )、横隔膜ヘルニア手術、肺切除術、食道閉鎖症手術などです。最近では、より傷の目立たない単孔式手術( 詳細はこちら )など、最先端の手術手技も積極的に導入しています。



腹腔鏡下小児鼠径ヘルニア根治術について

(1)手術方法
 手術は従来の方法と同じく全身麻酔で行い、日帰り手術に対応しています。 腹腔鏡という細いビデオカメラをおなかの中に入れて手術を行います。これま での手術方法と手術時間はほとんど変わりなく、傷を小さくでき、同じ傷から両側を同時に手術できるという利点があります。


① ビデオカメラはおへその中を5mmほど切開して挿入します。
② おなかに炭酸ガスを注入して鼠径部の穴を観察します。
③ 器具を挿入するためにおへその横を3mmほど切開します。
④ おなか側から見ながらふくろの根元を直接糸でしばります。



(2) 反対側の精査と治療
  従来の手術方法では約10%の確率で将来反対側のヘルニアが出現します。腹腔鏡下根治術では、おなか側から観察して反対側も穴が開いていた場合は同じ傷で同時に手術をすることが可能です。そうすることで将来の反対側のヘルニア出現を予防することができます。

(3) 手術の危険性と再発の可能性
  再発率は1%以下で従来法と変わりありません。手術の危険性は創の出血や感染などですが、これも従来法と変わりありません。




漏斗胸の手術(Nuss法)について

1.漏斗胸とは
  漏斗胸は、胸骨とそこにつながっている肋軟骨、時として肋骨の一部が背骨に向かって漏斗状に陥凹している状態です。原因に関しては肋軟骨の過成長(成長しすぎる)により肋骨が後方へ押され胸が凹む、上気道感染を繰り返し奇異呼吸が長く続いたため前胸部が凹む、など言われていますが、ハッキリした原因はわかりません。通常は胸郭の変形以外の症状はみられませんが、陥凹が強くなると喘息や易感染性などの呼吸器症状や心電図異常などの循環器症状を伴います。こういった症状を伴う場合は治療の適応となりますが、とくに症状がなくても陥凹が目立って本人の精神的な負担が強い場合は治療対象となります。




2.手術方法(NUSS法)
  当院で行っている治療は、落ち込んでいる胸骨を金属プレートにより持ち上げることを目的としています。両側胸部の約2cmの皮膚切開創から胸腔鏡のガイド下に陥凹した胸骨後面にプレートを挿入して持ち上げ、プレートの両端を肋骨で支えます。



3.手術の合併症
(1) 無気肺
手術後は、胸が痛いため普段のように身体を動かしたり、勢いよく痰を出したりできません。このため痰が気管支に詰まり肺の一部がしぼんでしまいます。これを無気肺といいます。肺炎を起こさないよう抗生物質を使いながら痰が取れるのを待ちます。

(2) 気胸・皮下気腫
胸腔に空気が残ることです。手術を終了する前に十分肺を膨らませて胸腔中の空気を追い出しますが少量の空気は残ります。空気の量が多い場合には注射器等で空気を抜く場合があります。皮下気腫を合併することがありますが、通常は1-2週間の経過で自然に吸収されます。

(3) 胸水
胸腔に液体が溜まることです。発熱や痛みを伴うこともあり、そのような場合は抗生物質や消炎鎮痛剤の投与が必要になります。

(4) 血胸
胸腔に血液が溜まります。量が多い場合は、管を入れ溜まった血液を抜きます。 少量であれば、4週間ほどで完全に吸収されることが多いようです。

(5) 膿胸
胸腔に膿が溜まることです。大変重篤な合併症で、治療に時間がかかります。場合によってはプレートを抜去しなければならない場合もあります。

(6) 心臓、心嚢の損傷
心臓の近くを手術しますので心臓あるいは心嚢(心臓を包んでいる膜)を傷つける可能性がありますが、胸腔鏡ガイド下に行うことにより安全に行うことができるようになりました。

(7) 出血
通常出血はほとんどありません。しかし、手術には100%ということはありませんので、輸血が必要になる可能性もあります。

4.手術後は
(1) 痛みがなく経過が順調であれば、通常手術の一週間から10日後に退院となります。
(2) 術後1ヵ月は運動や重いものを持つことは控えてください。
(3) 術後1-3ヵ月は軽い運動は可で日常生活に制限はありません。
   術後3ヵ月以降は運動制限もなくなります。
(4) プレートを抜去する手術は2年後です。

単孔式腹腔鏡下手術について

 腹腔鏡下手術は「簡単なものから複雑なものへ」とその対象疾患を急速に拡大してきましたが、これまでは多くの場合、腹腔内に挿入する器具の数を増やすことでより複雑な操作ができるようにしていくというものでした。 一方で、腹腔鏡での手術がある程度確立されたものになると同じ腹腔鏡でするのでも 「 より少なく、より小さい 」 傷ですることを目指す流れが起こってきました。創が1つだけの単孔式内視鏡下手術 ( TANKO ) はその一つの到達点と言えます。

 小児におけるTANKO:TANKOはこのように新しい術式です。使用する道具の面でも、技術的な面でもまだまだ発展途上であり、特に小児の小さなおなかの中で安全にクオリティの高い手術を完遂するのはときには至難の業です。 私たちはこれらの問題点を克服して小児においてもより安全に行うために、腹腔鏡を用いたおなかの中での処置と、創部からおなかの外に臓器を引き出して行う処置とを組み合わせたハイブリッドTANKO手術を行っています。